今日から世間は夏休みなわけで、みんな仲良くプール行ったり、スイカ割ったりするわけで、こんな風に学校で英語の課題とにらめっこしてる人なんて私と赤也くんくらいだと思う。ちらりと視線を向けると、ちんぷんかんぷん、そんな言葉が似合う顔をしていた。


「ねえ、3番わかる?」
「オレも今そこ」
「thatかなあ?」
「なんでアレって意味が入るんだよ?」
「thatって関係代名詞じゃなかった?」
「カンケーダイメイシ?は?」
「まいいか!」


40人もいるクラスで英語の補修にひっかかったのは私と赤也くんだけだった。先生は課題を私たちの机にどんと置くと早々に教室を去っていく。自然とため息が漏れる。2人しかいない教室ではシャーペンのカリカリという音とエアコンがゴーゴー鳴る音が混ざり合う。元気な運動部のかけ声が閉めた窓を突き破って入り込んできて、赤也くんが腰を浮かせたのがわかった。横に立てかけたテニスバックを膝でつつく彼は手を止めてグラウンドを眺めている。きっと早く部活に行きたいんだろう。


「私後ろから解くから後で写し合おうよ。その方が早いと思うし」
「おーナイス!じゃあオレ前から解くわ!」
「がんばろ」


早く部活に行って赤也くんが大好きなテニスをしてもらいたいと思った。赤也くんが部活のために学校に来てるというのは太陽が東から昇るのと同じくらい、私のクラスでは常識で、もちろん私にとっても常識だったのだ。小指の先程も無い貧しい脳みそを赤也くんのためにフルに活用させて絞り出した答えを教えて私も見せてもらう。あまり綺麗じゃない字を一時一句違わずコピー機みたいに写しとる。脅威のスピードで課題を終わらせて職員室に向かう足取りは2人とも軽い。呑気に職員室で野球を見ていた先生に課題を突き出すと先生は驚いた表情を向けて、それから思い出したように冷蔵庫からサイダーを2本恵んでくれた。


「赤也くんこれから部活なの?」
「ああ、午後からな。あんたは?」
「私はもう帰るよ」
「予定あんのか?」
「別にないよー図書館行こうかなと思ってたくらい」
「暇だったら、練習見ていかね?」
「迷惑じゃない?」
「全然全然!っつーか寧ろ来てくれたらオレまじでめっちゃがんばれちゃう」
「ほんとー?じゃあお邪魔しようかな」
「…あんた天然なのか?」
「え?別に違うけど」


赤也くんがなぜ呆れ顔で私を見ているのか良くわからない。呆れ顔のままため息を吐くとプシッとプルタブを開けてサイダーを一気に飲み干した。グビグビと喉を鳴らしてサイダーを飲む赤也くんを高度を上げた太陽光が照らす。その姿がとっても男らしくて夏に似合っているねと言ったら赤也くんが勢いよく吹き出した。


夏色サイダー
100730/タイトル selka
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