シャリシャリと鳴り響く氷を削る音に足が止まる。店の前には5才くらいの男の子と女の子がかき氷の出来上がりを今か今かと笑顔で待っていた。風にヒラヒラとなびいている暖簾の赤い文字を見てああ夏だなーと思う。だって夏の風物詩と言ったらかき氷だろう。 「ナマエ」 「キバじゃん」 「どれにすんの?」 「え、買ってくれるの?」 「うん」 「…じゃあイチゴがいい」 後ろから声をかけてきたキバが店のおじさんにイチゴとレモンを頼んだ。ぐるぐると機械を手で回して作られていく白い透明な山を見つめながら、最近全然会えていなかったなとぼんやり考える。 「おまえなんでイチゴにしたの」 「キバの三角形が赤だから」 「まじ?」 「うそ」 キバが細い瞳をさらに細くして呆れ顔で私を見る。おまえなあ…と全部を聞く前にかき氷が出来上がった。夏の外気に同調するように温められた手のひらにひんやりとした感触が伝わって気持ちいい。私たちは歩き出した。二人の間はサクサクという涼しげな音が響いていて、それ以外私もキバもしゃべらない。気まずいわけでもない。ゆっくりゆっくり歩く。そういえば昔、私とキバが今日のように並んで歩いていたらちょうど木の下にいて虫と対話をしていたらしいシノに「せっかちなキバがこんなにゆっくり歩くのは不思議なことだな」と言われた。その時はワケがわからなかったけど今ならわかる。 「もっと早く歩こうか?」 「は?なんでだよ」 「いや、もっと早い方がいいかなと思って」 「意味わかんねえ、別に焦る必要ないだろ」 じーっとみつめているとキバは逸らすようにもう入ってないかき氷のカップに視線を落とした。端から見たらわかりにくいけどキバは優しい。器用じゃないけど。私も視線を落として気づかれないように小さく笑う。ふと幸せだなと思う。一緒にいてもう何年も経つけど、こんな風ななんでもない瞬間が私は一番好きだ。そんなことを考えてると空になったカップをふわっと取り上げられた。 「大丈夫だって持てるよ」 「手」 「え?」 「持ってたらつなげねーじゃん」 キバの大きい右手が私の左手を荒々しく捕まえる。伸びた二人分の影が混ざり合って黒く染まり始めた道に同化して消えてしまいそう。ぎゅっと握ってみたらそーっと握り返される。私が感じていた幸せをどうやらキバも感じているに違いない。言ったらバカにして笑うだろうか?そうしたら私の好きな犬歯が見れるからそれも悪くないかもしれない。思わず笑みがこぼれた私にキバが「何笑ってんだよ」と犬歯を見せて笑った。 イチゴレモン 100829 |