「ただいまー」
「げ」


長い長い任務から帰ってきて玄関の扉を開けるなりキッチンの方からオレの愛しの彼女はいかにもまずそうに一言「ヤバい!」と漏らした。だいたい彼氏の帰宅に普通なら甘い声で「おかえりィ」なんて言うもんじゃないの?普通は。


「なんでこんなに早いの!」
「なんなのお前、だいたいさ愛しい彼氏が帰ってきたんだから、おかえりなさいあなたとか言って抱きついたりとかないの?」
「え、なに抱きついてほしいの?」
「ハハなんか改めて言われると照れるな」
「じゃあしない」


ほんとナマエは素直じゃない。またキッチンに戻ろうとオレに向けた細い背中をすっぽり包み込むかのように抱きしめる。こんな風にして認識するその感触にナマエはオレの見ていない所で本当にちゃんと食べているのだろうかと、いつもいつも心配で仕方がない。前を向いたまま逃れようともがく彼女を行かせまいと腕に少し力をこめる。暫くして堪忍したのか大人しくなった彼女は深く息を吐いた。


「そんな抱きつかれたら動けないよ」
「んー、お前は抱き心地がいいなあ」
「…」
「ん?」
「…あのね、カカシ」
「なに?」
「カカシが生まれて来てくれてよかったと本当に思う」


唐突だった。なんの脈絡もなく紡がれた言葉は抱きしめていなければ聞こえなかったかもしれない。そんな小ささだったけれど、しっかり拾えば鼓膜からスーッと息をつく間もなく全身に行き渡っていく。温かい、9月なのにそう思った。


「誕生日…なんだな」
「他人ごとみたいな言い方だね。まあ忘れてるだろうなと思ってたけど」


カカシは忙しい人だからね、そう続けて肩を揺らしながらナマエが小さく笑う毎に振動が細やかにオレの腕を刺激する。顔が見たい、言うと緩みかけた腕をするすると解かれる。ゆっくりと振り返ったナマエは優しく微笑んでいた。次から次へと感謝や愛おしさが溢れ出していくのを伝えたいのに、こんな時に限って上手い言葉がみつからない。だから一言だけ言うよ。


「ありがとう、これからもずっとよろしく」



ゆびきりしよう
100915/タイトル selka
カカシ誕生日おめでとう!
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テーマ「人外ファンタジー」
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