長いようで短い夏休みもあっという間に終わってしまい2学期が始まった。9月になったというのに相も変わらず気温は信じられないほど高くて真夏日。そしてここ大阪府立四天宝寺中学を取り巻く外の空気も例外なく熱気が揺らめいていた。そんな暑い暑い紫外線降り注ぐ4限授業に体育だった3年8組。後ろのドア付近をうろうろする女子生徒が一人。着替えを終えて教室から出てきた一氏ユウジは女子の姿を認めると眉をひそめた。


「なあ」
「ひ、一氏くん」
「そない突っ立っとったら邪魔やねんけど」
「あ…ごめん…!」


ギロリと一睨み利かせた一氏に彼女は眉を下げて俯いてしまう。流れる沈黙にいつもならそのままシカトをして放置をするのだけどこの子だけにはそうはいかないのだ。そもそもそれならば最初から話しかけたりしない。


「あらナマエちゃん来てくれたん?」
「小春ちゃん!ごめん、体育って知らなくて」
「気にせんといて、呼んだのはこっちなんやから」


いけすかない女だと一氏は思った。思うだけで声には出さない。小春と名字ナマエは本当に仲がよく口を挟むタイミングなんて小春と言ったら一氏、一氏と言ったら小春と巷で呼ばれる一氏ですらわからないのだ。キャッキャッと盛り上がる二人の空気はやたらボディタッチしたりと女子特有のそれと同じで周りに花でも浮いている感じ。ナマエはさっき一氏と二人でいた時とは打って変わってそれはそれは楽しそうにキラキラ笑っている。その様子にだんだんとイライラが募る。「やあねぇナマエちゃん」と小春の手がナマエの肩を押すのを見た一氏の中で何かがプツンと音を立てて切れた。


「名字」
「え、な、なに?」
「あんま小春に触らすなや」
「あ…」
「それとヘラヘラすな」
「ご、ごめん…」
「さっきオレとおった時全然喋らへんかったやろ」
「それは…」
「いっつも来たか思えば小春ちゃん小春ちゃん小春ちゃんて」
「…ごめん」
「オレには会いに来ーへんやんけ」


溜まりに溜まった毒を吐き出した一氏はおかしなことを言ってしまったと気づいた。それではまるで自分に会いに来てくれと言っているようなものだ。二人の間にはさっきの上をいく更に気まずい空気で満ち溢れ出し、耐えきれなくなったのかナマエはまた俯いた。けれど先ほどとは違って心なしか頬が赤く染まっていた。一氏はますますどうしたらいいかわからなくなってしまう。そうだ、小春に助けを求めよう。そう思い顔を向けると小春は目にシワを寄せてそれはそれは嬉しそうに微笑むとナマエに話し出す。

「ほらナマエちゃん後は一人で頑張り?」
「こ、小春ちゃん、私」
「大丈夫やて。ほんでユウくん、好きな女の子には優しくせなアカンよー?」
「は?ちょお待てや小春うー」


ヒラヒラ手を降って小春は教室に戻ってしまった。取り残された二人。どうしたものかと悩む一氏とは逆にナマエは意を決したように顔を上げると一氏の目をまっすぐにみつめた。


「一氏くん…誕生日おめでとう…!好みとかわからなくて小春ちゃんに協力してもらったりして」
「お…ん」
「気に入ってもらえるかわからないけど良かったら…」


そうして渡された藍色のラッピングは少し歪んだ形をしている。遠慮がちに差し出されたナマエの手は少し震えている。その様子に痒さに似たような温かい何かが胸に溢れていくような気がした。今すぐにその手を握ってしまいたい衝動を押し込める。


「これ自分で包んだん?」
「うん、あんまり上手に包めなかったけど」
「せやな、この辺ぐちゃぐちゃやん」
「あははごめん…」
「冗談や冗談、おおきに」
「…ありがとう」
「なんで自分がお礼言うん」
「すごい嬉しかったから」
「変なやっちゃな」


そうして一氏は優しく笑い、彼女もそんな一氏に胸を高鳴らせながら笑い返す。そんな見たことないような優しい一氏の笑顔をうっかりちゃっかり目撃していたクラスメイト達が「一氏ってホモやなかったん!?」なんて囁き出したのをもちろん二人は知らない。その次の日、一氏の頭のバンダナが藍色だったことでそんな囁きは更に濃くなったのだった。



怪物くんの想いびと
ユウジ誕生日おめでとう!
100911/タイトル にやり
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