最近オレの頭の中はよく利用する地元のコンビニで働く一人の女店員のことで一杯だった。そもそも彼女を気になり始めたのは店先の広告に踊らされて今年の夏のはじめに冷やし中華を買ったときの「あたためますか?」という彼女の対応がきっかけだ。「冷やし中華温めるヤツなんて聞いたことねーぜ」と思わず言ったオレにおどおどしながら眉を下げて笑った彼女の顔が頭から離れない。



「なあ侑士ー、オレどうすりゃいい?」
「岳人がしたいようにすればええ」
「オレのしたいように?」
「そや」


部活が終わって部室で侑士に相談してみた。侑士は着替えるのが遅くて逆にオレは早いからもうとっくに着替えた。オレのしたいようになんて言われてもよくわからねー。「もう答え出とるやろ?」なんて笑う侑士に首を捻って柔らかなソファーに飛び込む。マジわかんねえ。むしゃくしゃしながらテーブルの上にあった鳳のフランス土産のクッキーを口に放り込む。うっわ…めっちゃ甘すぎ。


オレは今日もまた彼女のいるコンビニに向かう。侑士の言うオレがしたいようにの意味がまだわからない。頭の中でモヤモヤをいくつも抱えながら納豆巻きを手に取りレジの横の唐揚げを頼む。彼女は淡々とあくまで事務的に接客するから寂しい。「最近よくいらっしゃいますね」とか「納豆好きなんですか」とか話しかければいいのにとか彼女の指先を見ながら思う。寂しいから、オレこんだけ唐揚げばっかり食ってたら鳥になれるかもしんねーなとか考えてみたけどなんでか全然嬉しくない。ウィンドーケースにトングを突っ込んでる彼女の瞳をみつめる。手を加えていない真っ黒な髪と同じように彼女の黒い瞳に映るオレはただの客でしかないんだろう。くそくそ、なんかすんげー苦しい。いても立ってもいられないそんな感じ。お釣りを運んで来た嘘みたいに白い手を反射的に引っ張って彼女の目を捉えて言う。


「オレ向日岳人っつーんだ」
「あ、あの…お客様」
「あんたと話したいんだよ、バイト終わるまで待ってっから」


どうなるかなんてわかんねーけど、ただの店員と客で終わらせたくない。多分これがオレの答え。考えるより先に体が動いていた。オレが待ちたいから待つそんだけ。別に理由なんていらねーじゃん。自己完結させてずらした目線の先に捕らえた彼女のまん丸に見開かれた目がゆっくりと弧を描く様子はまるで三日月みたいだと思う。


「向日さんって」
「え…う、うん」
「唐揚げ好きなんですよね」
「あ…うん、すっげー好き」
「あと30分です」
「え?」
「バイトが終わるの。待っててくれますか?」
「お…おう!」


よっしゃ!喜びが体中を駆け巡って思わずオレは飛び跳ねる。ちょっとびっくりしたような笑顔は多分営業スマイルじゃないとオレは信じてる。白いビニール袋の中で唐揚げが跳ねた。オレ今ならきっと空飛べるぜ。


twinkle

100912/タイトル sting
岳人誕生日おめでとう!
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