ギアステーションに通いつめるようになったのは、バトルサブウェイで繰り広げるポケモンバトルにすっかりハマってしまったからだ。というのは表向きでサブウェイマスターであるノボリさんに恋をしたからという不純な理由も結構あるのだった。今日もいつものようにシングルトレインに乗り込んで、ノボリさんのいる21両目までたどり着いた。そしてやっぱり私は惨敗してしまった。悔しいけれど、同時に強いノボリさんが私はますます好きになってしまうのだった。お礼を告げて電車からホームに下りると、一際一目を引くホワイトのコートを纏ったサブウェイマスター、クダリさんが立ってにこにこ笑っていた。 「ナマエ!!」 「クダリさんこんばんは」 「これから良いとこつれてく!来るよね?」 「良いとこってどこですか?」 「キミの大好きなノボリのとこ!」 私は思わずポカーンと開いた口がふさがらなくなってしまった。クダリさんはいつのまに私のノボリさんへの気持ちに気づいたのだろう。ノボリさんと何ひとつ変わらない顔をにっこにこと緩ませながらクダリさんはスキップする勢いで私をぐいぐいと引っ張るから危うく転びそうになる。 「クダリさん、もうちょっとゆっくり…」 「はい着いた!ノボリー!」 「…クダリ、もう少し静かに入って来れないかと再三言ってますでしょう?」 「あははごめーん」 「ナマエさま、申し訳ありません。そして先程はお疲れ様でした」 「いやいや全然!私も対戦して頂いてとっても嬉しかったですから」 私は目の前に大好きなノボリさんがいると言うだけで心臓が忙しなく鼓動を早めるものだからたまらない。こうして普通に話せるだけで私は十分シアワセなの。だからクダリさん頼むから余計なこと言わないで。って祈るようにクダリさんを見るとクダリさんがニヤニヤしながらドアを閉めて出て行く所だった。え? 「ごゆっくり楽しんで!」 「クダリさん?」 「クダリ!あなた…!」 ガシャン。 「やられましたね」 「え…まさか」 「はいそのまさかでございます。クダリはこちらの部屋から出られないようにドアが開かないようにしております」 「うわあ…」 「駅員はみなさん帰りましたし、生憎ここの電話も壊されています。恐らくクダリに」 「クダリさんやりますね…」 「申し訳ありませんナマエさま」 「いやノボリさんが謝る理由は全くありませんよ!」 小さく息を吐いて壁によりかかる。クダリさんがここまでしてくるとは正直思いも寄らなかった。きっと面白がってあれよこれよと企んだのだろう。私とノボリさんの間には気まずいような何とも言いがたい空気が流れる。壁にかけられた時計が精巧にチクタクと音を刻む。 「違うんです」 ノボリさんは言葉を置くように呟くと靴を慣らしながらゆっくりゆっくり私の方に近づいて来た。トン、と軽い音が私の頭の右の方で手を壁についたノボリさんから発せられた。高い背を折り畳むように彼は私の上から私を見下ろす。 「ノボリさん?」 「わたくしは正直この状況をチャンスであると思っているのですが…?」 「え、チャンスって?」 「わたくしも男ですから」 「え、え?」 「つまり好きな女性と2人っきりで平然を保ってなどいられないということです」 好きな女性…?面食らう私をよそにノボリさんの壁につかれていない方の手が私の髪をするりと撫でてそのまま頬を滑り落ちる。わけがわからないまま私が思わずくすぐったさに体をひねると、ノボリさんはクスリと笑って「あなた様は本当にかわいい」と瞳を揺らすのだった。 ほらほらはやくおいで 110524/タイトル にやり |