二限の休み時間、ふと視線を向ければ、もくもくとアップルパイを頬張る姿があった。早弁かただの間食か、定かではないが次々と名字の胃へと消えていくアップルパイ。よく食べるな、女子なのに珍しい。思わず口角が上がりそうになったの前の時間の教科書で隠す。それはそうと名字の前の席にXさんの姿が見当たらない。どうやら最近出来た彼氏のクラスに行ってるとか、まあ、ただの俺の予想。そして後ろの倉持は寝ている。チャンスじゃん。え、チャンス?俺はなにを考えている?某球団のチャンテを頭に流しながら、名字の前に座る。

「アップルパイ?うまそう」

聞けば、どうやら昨日持ってきていたリンゴで作ったようだった。俺だったらこうするって言う通りに作ってくれたんだな。不意に、こそばゆいような感覚が淡く頬をかすめる。なんだこれ。

「ダイエット中じゃなかった?」
「うるさっ」
「はっはっは」
「御幸さあ、そんなこと他の子に言ったら、張っ倒されてるとこだよ」
「大丈夫、名字以外には言わねーし」

うそじゃない。俺のこと君付けで呼ばない女子は数えるぐらいしかいなかったし、そもそも大半の女子は俺によそよそしかった。倉持とかはモテ男だからだろうぜえなんて言ってくるけど、そんな甘い意味じゃなくて俺は彼女たちに壁のようなものを感じるし。自分の何を見てんのか俺にはわからない。理由なんてないのかもしれねえけど。ぼうっと名字を見れば、不安そうな、怪訝そうな、いろんな感情が混じった表情をしていて、目を見張る。でも瞬きする間に、普通の表情に戻っていて、なんだったんだ。かと思えばいかにもな棒読みが飛んできた。

「……なにそれ、もっと女の子扱いしてほしいなあ」
「ははっ棒読みじゃん」
「棒読みにもなるよ!」
「ごめんごめん、てか食べたいんで下さい」

渋々、そんな態度を作って名字は頷く。ほんとは快く分けてくれてるって柔らかな口元が告げている。さくり。うめえ。美味いって一言を自然と口にしようとするのに、眼前にあるのはそわそわと心配そうな顔。心配しなくても美味いのに。でもそういう顔もいいなって俺は思ってしまうなんて。

「すんげぇ美味い」

ぱあっと輝く笑顔、そんな様子にじわっとゆるやかに耳が発熱していく。嗚呼。もしかして。俺は気づきそうだ。

グツグツ

140910
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