するすると皮が剥けていく途中で包丁の冷たさは私の体温に奪われて、もう感じられなくなっていた。もくもくと作業に勤しみながら、だんだんと形を変えていくリンゴたち。包丁、まな板、鍋、コンロ、オーブン。たくさんの調理器具によってめかしこんでいくようだ。美しかった赤から最終形態としてきつね色に変化し、完成したアップルパイ。ひとつ食べてみたら普通に美味しかったけど、煮え切らない感情が後味となって残った。原因はわかるようなわからないような。
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二限の休み時間、アップルパイを食べたいって言ってくれたクラスの女子に配り終えて私も残りをぱくぱく食べていた。甘さと酸味の融合体を舌で感じて、我ながらなかなか良く出来たと自画自賛。ぽっかり空いた前の席に、彼氏に会いに行くからとっておいて〜と言ったXちゃんではなく、ゆるっと男子が座ってきた。
「アップルパイ?うまそう」
「みんなに配って残ったからね」
「ダイエット中じゃなかった?」
「うるさっ」
「はっはっは」
「御幸さあ、そんなこと他の子に言ったら、張っ倒されてるとこだよ」
「大丈夫、名字以外には言わねーし」
沈黙。教室の何処からともなく聞こえるざわざわに救われている。御幸の眉が心なしか下がったような気さえするのはきっと私の勘違いなんだろう。
「……なにそれ、もっと女の子扱いしてほしいなあ」
「ははっ棒読みじゃん」
「棒読みにもなるよ!」
「ごめんごめん、てか食べたいんで下さい」
しょうがないなあって、うなずくと御幸は嬉しそうにアップルパイを放り込む。どうかな?御幸の口に合うのかな?なんでかな、他の人よりすごく気になる。
「すんげぇ美味い」
緩んだ目元にぎゅっと胸が詰まる音が鼓膜を揺らす。ありがとうって口に出して、その音を覆い隠してる意味なんて知らない。
ニエキラナイ
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