人通りが少ない階段の踊り場に座り込んでる見知った背中があった。なんで背中で判別できるかといえば、別にこいつが恋愛的に好きとか嫌いとかまあそういう甘酸っぱい類のものではなくて単に現在、席が前だったから。
「お前なにしてんの?」
「リンゴをみつめているの?」
バカか。そんなの見ればわかる。俺が聞きたかったのはなんでみつめているのとか、なんで丸ごと持ってきてるかとかそういうこと。そんな俺の視線に気づいたのか否か?名字は俺を一瞥した傍ら、いかにも女が好きそうな雑貨屋の紙袋にそのリンゴを入れた。ごんと鈍い音がする。ぶつかり合った音、まじ雑。
「なんか投げると甘くなるって聞いたなあと思って」
「それみかんのことじゃねーの?」
「同じじゃん」
「そうか?」
「うん」
「ふーん」
「貰ったの、学校来るときに」
「は?話飛んだな」
「だって、意味わかんないって顔してたから」
「そんな顔出てたかよ」
「うん、バレバレ」
「いや嘘だろ、俺ポーカーフェイスで有名だし」
「あはは、うそっぽーい……ほんと」
倉持のことならわかるのになあ。え、聞き返す間も与えてくれず、名字はスカートのプリーツを直しながら立ち上がってゆっくり振り返った。あ、そういう目すんの。
「御幸がね、作るならアップルパイだって言ってたの」
「…御幸が?」
「うん、それ聞いたらアップルパイ作るのいいなあって」
「つーか名字って料理できんの?」
「失礼だね!倉持よりはできるし」
「俺と比べても仕方ねえだろ」
「はは」
まじ意味わかんねえ。不思議ちゃんでも狙ってんのか、いつもの憎まれ口も調子悪くてそんな自分の方が一番よくわからねー。
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140617/title by たかい*前 ◎ 次#