※俺様口わるい色々ひどい 見てしまった。鳴が女の子と二人っきりでおしゃべりしてるのを。これが嫉妬ってものかーと思った後で、もやもやした感情が私を襲う。こんな汚れた部分を鳴には絶対知られたくない。 「なんか上の空でしょナマエ?」 ひょいと私を覗き込んで鳴は言う。じりと足元の砂が鳴く。べつにと返しても鳴はその答えを望んでなどいなかったようで、ぷうっとどこぞのキャラクターのように頬を膨らませた。触ったらぷにぷにしてそう。今はやりのゆるキャラみたいな。 「俺相手にごまかそうとかいい度胸してるじゃん?」 「だって言ったら怒るかなって」 「いーよ怒んないから早く言ってみて」 いやいや既にこめかみがピクついているのを隠せてない鳴が怖い。ほらほらと急かす語尾が荒んで来てそれにまるで連動するように、つんつん私のお腹をつついてくる。 「やっぱり言わない!」 ダッシュで逃走をはかって、校舎裏まで着いたのに鳴はまるで瞬間移動でもしたみたいに私の隣にいて目がまん丸になる。私のカーディガンの背中を掴んでもう、誰が見てもわかる位にかんかんになっていた。 「ねー俺から逃げられると思ったの?」 「う…ん?」 「稲実のエースの俺から?ばかじゃないのいやばかだね」 「ばかって…!!」 「だってばかじゃん、お前はさあ…」 「うん、なに?…鳴?」 「やっぱやめとく」 すたすたと鳴は踵を返して歩き出す。私も、追随して隣に並んで鳴を見るけれど、今度は鳴が上の空だった。珍しい。なんか言ってもうんとかあっそうとかしか言わなくなってしまった。そして私が頬を膨らませる番だ。この際自分のことは棚に上げておく。もういいや、今日はさよならしよう。 「じゃあ、私帰るね」 「うん」 「がんばって…っ…!?」 突然誰かにぶつかって、衝突の反動でよろめく体をぶつかってしまった相手に支えられた。がっちりした腕が背中に回っていて、そのままリクライニングみたいに垂直に私の背中を直す。 「すみません…!私ぼーっとしていて!」 「ほんと危なっかしいな、お前は」 「…雅さん?」 聞き覚えのある声にはっと我に返って目を開けてみれば雅さんが立っていた。今の今まで相手が誰かなんて気づかなかった。緊張がほどけて、申し訳ないけどぶつかったのが雅さんで良かったとちょっと思う。 「あの、怪我とかしてませんか?私のせいで……」 「そうだよ、お前のせいで雅さん壊れたらどーすんの!?ほんとなんでキミはそうも鈍いのかね!?」 「鳴お前は黙ってろ。俺はなんともない、名字の方こそ大丈夫か?」 「はい…ありがとうございます」 雅さんに怪我がないと聞いて安堵し、胸を撫で下ろす。雅さん、本当にいい人だ。包容力って言うのかなあ、キャッチャーやってることにも関係あるのかもしれないけど。私がしんみり雅さんの優しさに浸っていると、だんだんと床を踏む音が2回して鳴がまたもやイライラしていた。 「どうしたの?」 「ほんとむかつくナマエ!!」 「なんで!?」 「おいおい…」 「雅さんすぐ行くから先行ってて、俺はこいつに説教がある!」 びしっと私のほっぺをつねって言うから、こっちも応戦しようと手を伸ばすけどひょいひょいと交わされる。野球部ずるい、男子ずるい。そんな様子に、雅さんが申し訳なさそうな心配そうな目を私に向けるから、お辞儀をしたら負けるなよと軽く手を上げて去って行った。どこまでできた人なのだろう。 「それだよそれ!」 「なにが?」 「雅さんに色目使いすぎなんだよ」 「使ってないよ」 「いや使ってるね、それにさっきだって雅さんに支えられて、目がきらっきらしてたし」 「してないよ!」 「雅さんはお前みたいな子供には興味ないよざんねーん」 「わかってるし、てかそういうつもりじゃないって!」 「ふーんどうだかね」 ああ自分に腹が立つ。思うように伝えたいことを上手に伝えられない。意図とは遥か遠くの方向へ進んでいく。いつからだろう。なんでだろう。 「だいたいさあ雅さんに触らせてんじゃねえよ」 「え?」 「そこは俺の助けを待てよばか」 「とっさのことだから仕方ないじゃん…」 「だからむかつくんじゃん」 「ごめん」 「謝ることじゃないし!つーかこれ嫉妬だよわかる?」 「……鳴、」 「幻滅しただろ、俺そういうところちっちゃい男なの」 「私だって!」 「あ?」 「鳴が今日クラスの女子と二人っきりで仲睦まじく話してるの見てめっちゃ嫉妬したんだよ…」 言ってしまった。こんなところ見せたくなんてなかったのに。ぎゅっとスカートの生地を皺ができそうなほど握りしめて鳴の言葉を待つ。嫉妬したって聞いて嬉しいのに。先に進むのは怖い。 「さっき言おうとしてたのそれ?」 「うん…」 「なんだよ、早く言えばいいのに。普通に嬉しいんだけど」 「そうなの?」 「とーぜん、つーか俺たち似た者同士じゃん」 「みたいだね」 「じゃあ…」 仲直り!と、鳴が手を差し出して微笑む。なんだか恥ずかしくてこそばゆいような感覚が私を襲って離さない。じんわりと胸があたたかくなって、頬が熱くなる。そっとみつめた鳴の頬もちょっぴり染まっていて、私たちは彼の言う通り、どこまでも似た者同士のようだった。 棘のさいご title by 舌/140427 つづくかも? |