昔から桜がすごく好きだった。あの春の日、毎年の恒例行事として舞う花びらに感嘆の息を洩らした私の目を奪ったのは同じようにきれいなピンク色の髪の毛。あんまりきれいなものだから羨ましいなーとみつめていたら、その人が振り返って男の子だったのを見てびっくりしたのを覚えている。そもそも制服がズボンだったのをなぜ気づかなかったか、友達には笑われた。それでもあの人に言ったことはない。そんなこと言ったら、たちまちにコンマ何秒の早さで伝家の手刀が飛んで来るのに違いないでしょう。

「きれいですね」
「桜?きれいだよね、ちょっとそこに立ってみて」
「こうですか?」
「うん、お前でも隣にいれば雰囲気でましに見えるし」
「ふふ」

そんなこんなでフェイクをかけて桜がきれいだねという話をしたら、思いがけない収穫があった。可愛いとかじゃなくて、ましに見える。そう言われただけなのにむしろ、とてつもなく嬉しくなってしまう。

「うれしいの?」
「はい、とっても!」
「やっすいねー」
「亮さんだからですよ」
「……」

隠したって彼には無意味なのだ。にこにこ笑みがとめどなく溢れる私を一瞥すると、ぷいと視線を逸らした。どうしようもなく亮さんの動作のひとつひとつが愛おしくてたまらない。

「あの、亮さん」
「なに」
「誕生日おめでとうございます」
「ああ…そっか」
「私、亮さんに会えて幸せです」
「ふーん、ありがと」

亮さんがいなかったら今の私はどうなってるのか。出会って数年、もはや亮さんのいない生活は私には考えられない。私は頭のてっぺんから脳内を通ってつま先に至るまで、総てがピンク色に染まってしまったのである。ピンクは亮さんの色だ。私の大好きな亮さんの。そんな重たい気持ちを伝えるのに抵抗がなくなったのはいつからだったっけ?

「ねえ、お前はやっぱり桜の側がいちばんましに見えるよ」
「ありがとうございます!」
「なんでだと思う?」
「え?」
「…俺と同じ色だからに決まってんじゃん、察しなよばか」

そう呟いて手刀の代わりに頭を撫でられて、これ以上ない位に私の頬はゆるゆる綻ぶ。短く微笑むと、私の手を掴んですたすた歩き出した亮さんの手は世界で一番春らしくて、世界でひとつしかない素敵な温度だと本気で思った。

染まってる
140406
亮さん誕生日おめでとう!
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