帝都は相も変わらず穏やかで、私はこの結界の外のことなんてすっかり忘れそうになる。魔物ひしめく結界の外。多くの民間人ならば、魔物の恐ろしさを知ることなくその生を終えるのだろう。遠い世界の話のように。しかし生憎というか何というか、私は民間人ではなかった。

「つまり私は、貴族街の人間も市民街の人間も下町の人間も守る義務があるのよね」
「なにをいまさら、ナマエは本当に唐突だよね」
「なんていうか、やっと再認識したっていうか」

戦う力を持たないすべての人たちを守るために騎士になりたいと、城の門を叩いて早二年。思い描いていた騎士とはずいぶんと現状は違っていて、私は半年もたたずにその期待を打ち砕かれたのである。組織の古い体制の汚さというか、なんというかとにかくきれいなことばかりじゃなかった。まあ、行動を起こさず見て見ぬふりをする私も同罪である。それなのに、今となりをながあいお足でゆったりと歩く小隊長、フレン・シーフォは全くもってきれいなままであった。それは眩しいほどの光を宿していて、なんだかちくりと胸のあたりが疼いた。入隊式、初めて出会ったあの日以来ずうっとそれは治まることを知らない。

「フレンは憎たらしいくらいに変わらないね」
「いきなり、どうしたんだい?」
「ほんと私もそうありたかったな」

自嘲気味に漏れたのは紛れもなく本音。私はフレンみたいになれない。すべてを動かす力も向上心もない。まじダメ人間。

「なに悩んでるか僕にはわからないけど、ナマエにはナマエの良いところがいっぱいあるじゃないか」
「えーそんなことない」
「まあ、気づかないというのがキミのいいところなのかもしれないけど…僕としてはそれも善し悪しだな」
「ん?意味わかんない」
「まだわからなくていいよ、でも」

ぴたりと動きを止めたフレンはくすりとこぼして言うのだ。

「僕がすべてを成し遂げた後…そうしたら、意味が分かると思うよ」

意味わかんないけど、全然わかんないけどフレンが甘くとろけるように言うから脳が身体に司令を送るのを忘れてしまって私は立ち尽くす。フレンが瞬きをひとつするとその細やかな睫毛がぱしりと音を立てたようだった。ぼんやりとみつめる一方で私の頬がゆったりと染まっていくのがわかった。フレン、あのね、口を開く間もなくフレンの言葉が私をかき乱す。

「僕の守るの中にはナマエもちゃんと入っているんだからね」

あのね私も同じこと言おうとしてたんだよ。

あまいだけじゃ溶けちゃうよ
130725/title ラヴィット彗星
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