※フレン好きな女の子とユーリ


「ユーリ」

あふれた言葉に潜む思いは目の前の男に果たして届いたのだろうか。どうしてこうなったんだろう。依然として状況を理解できない割には背中にぶつかる硬い壁の温度に冷やされるかのように、ひどく私の頭は冷静に機能していた。カプワ・ノールは雨がひっきりなしに降っていて、路地裏の寒々しさったらない。この男は私に暖を許してくれないのか。旅の疲れをとりたいのに。ああでも宿には行けないなあ。先ほど去っていったエステルとフレンが頭をよぎって胸に針が残る。

「ナマエ」
「ユーリ、そろそろ離してくれないかな?」

ユーリは黙ったままじっと視線を強めた。表すものは否定、現に私の右手は掴まれたままで。雨雲が落とす真っ暗なフィルターにさらに濃い影が、右手で壁に手をついたユーリから縫われる。

「やっぱりあいつが好きなんだな」

雨のザーッという音と反響するユーリの声。それが微かに揺れたように思えたのは私の気のせいだろうか。私の左胸の奥の方がひとつふるえていて、よくわからなくなって視線をふいと逸らした。

「私は別にフレンが元気でがんばっていればそれでいいって…」
「強がんなよ」

ぎゅっと、握られた手に力がこもって視線が再度かち合う。その瞳に釘付けされたように私はユーリから視線を逸らせない。少し水分を含んで束となった黒紫の髪が視界を掠める。

「俺の前では強がんなよ」

頼むから。懇願にも似たそれは今度こそ本当に揺れていて、らしくないなあとどこか遠くで思う。思ったけど、なんだか無性に泣きたくなる。ユーリの優しさが痛いほど私を撫でて、ごちゃごちゃになった感情は涙へと変化し既に濡れた頬を上書きする。そろそろとユーリの手が伸びてきて、頬の涙を拭われる。

「ナマエ」

回された手は恐る恐る、しかし、しっかりと私を包み込む。私は応えていいのだろうか。それともだめなのだろうか。ぼーっと考えているとだんだんと温かくなる。もう思考することも放棄して身を寄せれば、ユーリはぎゅうっと隙間をなくして私を呼ぶ。その音がひどく切なくて更に涙は止まらなくなった。


やうやう落ちてゆく
130414/title 弾丸
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