※決戦前日
※暗いかも

物事の本質を見抜く人だと思った。けれど、決してそれを表に出すことなく、へらへら笑う軟派な男。神子という何不自由ない環境を与えられ、絶対の地位を保証された彼が、その裏にこっそりと、厳重にまるで分厚い金庫に冷やすようにして隠す闇。それが私には時折感じ取れてしまう。初めてその事実を感じ取ったときはすごく恐ろしくて、それでいてすごく悲しかった。

「なあ、ナマエちゃんは俺さまがこわいのか?」

唐突だった。フラノールの美しい雪景色にもまったく劣らない美しい空気をふわりと身にまとって、ゼロスは私の前に現れた。応えるように、ゆっくり顔を上げるとぶつかる瞳。華麗で高貴さがただよう彼。それなのに、どうして。ぞわぞわと立つ肌は、きっと作りかけの雪だるまのせいだ。顔がない雪だるま。素手で触ったから。頭の中で思考を誘導する。いや、そうじゃない。そうじゃないんだ。

「それを知ってどうするの…?」

苦しい答えだった。逃げの答え。相手の出方をうかがう。ゼロスはきゅっと口を結ぶと私の前にしゃがみこんだ。しゃくり、雪の音がする。

「おいおい…質問の答えになっていねぇなぁ」

笑ってるようで笑ってない。ゼロスの瞳はまるで冷え切ってしまっているようだった。射抜かれた視線は私の肌を容赦することなく刺していく。緩くウェーブのかかった薔薇のような赤い髪も、造形品のように整った顔立ちも何もかもが美しかったけれど、恐ろしかった。

「こわいよ」

偽らない。ゼロスはたいして驚くそぶりもなく目を伏せて、息をもらす。

「だろうな、ナマエちゃんてばあからさますぎ」
「……」
「まあ、ロイド君と世界統合するまで我慢してやってくれや」

ひゃははと笑いながら、ゼロスは立ち上がった。揺れる銀を背負ってなんでもないように笑う。その様子にぎゅっと音を発する胸に立つ肌。どうして、彼の闇を見せてくれないのだろう。溶けて消えてしまいそうな儚さは雪と同じだ。手の届くところにいるのに、どうして。ふらりといなくなってしまうのではないか、独りで丸ごと抱えて消えてしまうのではないか…こわくてたまらない。

「好きすぎて、こわい」

洩れた声にゼロスは微かに目を見開いた。こわいの、いなくならないで、堰を切ったように溢れ出す言葉。頭の中では壊れた時計の針のように、今までの思い出が走っていた。こらえてもこらえてもだめだった涙。いよいよ滲んだ視界でゼロスの顔が見えないから、涙と雪が冷やす頬をひざにうずめる。届かないのかなあ。ふと、しゃくり、再び響いた雪の音に吸い寄せられるように上がる視線。

「ナマエ」
「ゼロス…」

クイッと親指で私の涙を拭うとゼロスは寂しそうに微笑んだ。

「ごめんな、ありがとう」





すべての戦いが終わり、フラノールに戻ると顔のない雪だるまがそのままの状態であった。まるで私の帰りを待っていたみたい。しゃがみこんで、木の実と、葉っぱで顔を作る。なかなかうまくできたと満足感に浸りながら、息を吹きかけて指を温める。遠く、背中から私をよぶ声。

「ナマエー!」

雪国に珍しく差す光を浴びてキラキラする白。ありがとう。もう大丈夫だよ。私はもう一度雪だるまをひとなでして振り返った。


美しきエンドロール

130218/title 弾丸
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