※色づき出すの続き

「全く、俺はお前が好きで好きで仕方ないようだ」

ふらり、柳くんの言葉は私をまるで使い物にならなくした。その場に倒れ込んでひんやりとした廊下につかれた膝が徐々に冷えていくというのに、顔の熱はちっとも退いてくれやしない。柳くんはふわっと風をたたみながら私の前にしゃがみこむと、心配そうにのぞき込んだ。私はふと不安になる。スカートは長すぎではないだろうか、髪は乱れていないだろうか?ネクタイは曲がっていないだろうか?唇は荒れてないだろうか?心配してくれる柳くんをよそに、そんなことばかり考えてしまう私はただの恋愛バカである。だって柳くんかっこよすぎるよ。

「具合が悪いのか?」
「軽い貧血だと思うから大丈夫」
「それだけか?」
「えっ?」
「俺の言葉が原因では…」

柳くんが最後まで言葉を紡ぎ終わるまでに堪えきれなくて私は視線をそらしてしまう。なんでもお見通しなの。またもやカーディガンに視線を落としても、柳くんがふっと息を吐き出したのが私にはわかってしまう。柳くんのやわらかな微笑みが私をなぞる。それだけでかあっと体温はあがって頬が熱を持つ。恥ずかしすぎて顔から火が出そうってたぶんこういうことを言うんだなあ。

「すまない、今のは少しからかいすぎた」
「柳くんひどいよ」
「名字がかわいすぎて、ついな」
「もう……」
「それと…そうだったら良いという願望だ」

柳くんはずるい。





次に目が覚めたとき私を包んでいたのはふかふかの毛布と柳くんのあたたかい視線だった。

「目は覚めたか?」

クリーム色のカーテンを背負いながら、柳くんは安堵の笑みを溢れさせた。ぐるりと周りを見渡してここが保健室であることに気づく。保健室?頭に、はてなマークを浮かべた私に柳くんは説明してくれた。どうやら私はほんとうに気を失ってしまったようだ。やばい、あんなこと言われて気を失うとか恥ずかしすぎる、私どんだけ免疫ないの。穴があったら入りたい。そんな私を察したのか、柳くんはおもむろに口を開いた。

「ちゃんと睡眠はとっているか?」
「うん、ああでも昨日は夜更かししちゃったけど」
「なにかあったのか?」
「好きなドラマが最終回で見終わったら、一話からもう一度みたくなっちゃって」
「……ふっ」
「あ、今バカにしたでしょ」
「いや、かわいいな」

わからない。くつくつと喉を鳴らして微笑む柳くんがわからない。柳くんはどうしてこんなに…急に不安が襲ってくる。私のことからかってるんじゃないの。柳くんが、私の大好きな柳くんが私のこと好きなんてそんなこと。ぎゅっと毛布をつかんで、やり場のない思いをかみ殺していく。整理整頓のできない心が表情を曇らせていって、それすらも柳くんは気づいてしまうのだ。

「どうした?」
「なんで私のことそんなに」
「不安にさせたか…」
「柳くんがわるいんじゃないよ」
「もう少し、名字は自信を持つべきだ」
「そんなこと言ったって私、未だに信じられないよ」
「信じられない?」
「大好きな柳くんが私のこと好きなんてそんな夢みたいなこと…」

私の意思とあまり連動せずに生まれた言葉は、最後まで吐かれることを柳くんによって遮られた。ピンと張ったブレザーが頬をこする。柳くんのブレザー。目を瞬かせて抱きしめられているんだなと、どこか他人事のように思う。

「やっと、言ってくれたな…」
「うん…」
「おどろいたな…名字もこんな思いをさっきしたんだな」
「柳くん?」
「大好きな名字が俺のこと好きだなんて夢みたいだ」
「うそじゃないよ、好きだよ柳くん」
「ああ」

あれほどまでに、拒んでいた言葉がすんなりと出て来た。どうしてかな、わからないけど柳くんのおかげだなあ。さっきまでの不安な思いはどこかへ溶けて消えてしまったみたい。柳くんの体温にひたっていると、優しく腕がほどかれて、柳くんの瞳が私の目を捉える。周りの世界はあざやかにピンク色に染まっていく。柳くんの一挙一動がもたらすそれが、触れる熱が、優しく私に告げていった。

「これで信じてくれるか?ナマエが好きだ」












121110/色づき出すの続き
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