※カースロット解呪後


「すべてをみんなに…ルークに話すの?」

おどろくほどふるえた己の声に、私が今、泣きそうになっているのを認めざるを得ないなと思った。先ほど、気を失ったガイのカースロットを解呪しているイオン様の横であふれそうになるのを必死でこらえた涙なのに。ガイはおもむろに起き上がり、あぐらをかくと、ようやく私に目を向けた。青くて、きれい。サファイアを想像した。値段なんてつけられない、サファイア。世界中のガルドを集めてしても手に入らない美しい宝石。ぼーっとみつめていると、青の中心が微かに揺らいで、ガイは眉を下げる。悲しそうな顔。ねえ、どうして。

「もちろん…公爵がしたことを許せる訳じゃない。ただ、ルークがいたから気持ちに整理がついた」
「うん…」
「復讐をやめたとはいえ、オレは仲間に話さなければならない時がきたんだ。キミには辛い思いをさせてしまうな…」
「ううん、私は平気。私もルークと一緒にいて、わかったの。復讐はもう、必要ないって」
「そうだよな」
「ガイこそ大丈夫なの?ガイが辛いなら私は…」
「大丈夫さ、オレはもう決めたんだ」

じゃあ、どうしてそんな切ない表情をしているの?弱い私は聞けない。声帯の奥の方で、密やかにそれは、はじけて消えていく。するりと、ガイの右手が遠慮がちに私の頬を撫でた。あの戦争以来、ガイが私に触れたのは初めてだった。細やかにふるえている大きな右手。私とガイの間で流れた16年という時の長さを、その右手が物語っていた。五歳という幼さで、ガイと私が背負ったものの大きさを、そして悲しさを肌で感じる。

「オレは大丈夫だから…ナマエは辛いなら泣いていいんだ」
「ガイ…」
「ぜんぶオレが受け止めるから」
「う…ん」
「もっとも、こんな身体じゃ信憑性ないけどな」

ふるえながら自嘲気味にガイは息を吐いた。ううん、ちがうよ。あなたの存在は私をこんなにも意味のあるものにしてくれている。あなたがいなかったら私は復讐をやめられなかった。あなたがいなかったら私は、今ここに生きてはいなかった。ガイは…ガイラルディア様は十二分すぎるほど私に光をくれたのだ。

「私は…どこまでもあなたについていく覚悟はできているのです、ガイラルディア様」
「それは、ガルディオス家を守る騎士、ミョウジ家としての言葉なのかい?」
「はい…」
「キミも同じ気持ちだなんて、オレの自惚れだったのかな」
「そんな…!だってガイラルディア様は…」
「好きなんだ。ナマエを仲間として、そしてひとりの女性として…もう、わかっているだろう?」

ガイラルディア様はやわらかく微笑むとその金糸を揺らした。今度はガイラルディア様の左手が私の頬の涙に添えられる。伝わる振動は、微かなもので私は目を見張る。ガイラルディア様はもう一度、目元をゆるませると、けれど確かな口調で言葉を紡いだ。

「オレたちは大丈夫だ」


夜明け/120917
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