ぱたぱたぱたぱた。自分で風を作って、自分で涼む。うん、なんて自給自足。それにしても暑い。人の部屋だから文句言うのは、若干はばかられるけどそれにしても暑い。

「そう思うんだったら、ちょっとは遠慮したらどうです?」
「日吉ってエスパー…?」

目を丸くした私に日吉は、全部聞こえてるんですよなんてそっぽを向いてツンツンしてる。かわいくない。くしを通しても全く引っかからなそうな髪とか、かわいいけどかわいくない。昨日リンスを忘れた私の髪はぎしりと音を立ててるのに。これじゃあどっちが女の子なのかわかったもんじゃない。そうだよ、嫉妬だよ。だいたいなんでこの部屋のエアコン、私が遊びに来るタイミング(日吉はそれを奇襲と呼んでいる)を見計らったように壊れるんだろう。

「それはあれじゃないですか?エアコンもわかるんですよ」
「日吉ってばかわいくない!」
「かわいくなくて結構です」

何なのこれ!反抗期じゃない?日吉のおかあさーん息子さんが反抗期ですよー!襖を開けて顔を廊下に突き出したところで日吉はフンと鼻で笑った。

「無駄ですよ、さっき出かけたんで」
「え!?日吉と二人っきり!?」
「なにかご不満でも?」
「ご、ございません!」

日吉とお家に二人っきり。広い日吉のお家に二人っきり。こんなの初めて。だって別に私たちは恋人同士じゃない。ただのプレイヤーとマネージャーなのだ。ただのって言ったら語弊があるかもしれない。私は日吉が好きだ。頭の中、八割日吉で占めるくらい日吉が好きだ。最も日吉は気づいてないだろうけど。バレンタインだって他の部員と同じのしか渡せなかったし、侑士に「ほら行ってき」って背中を押された時だって告白なんかできやしなかったし。でも日吉が好きな気持ちは本当だよ。本に没頭する横顔に、頬杖ついて口パクで好きだよって言ってみる。そしたら日吉が、

「俺もナマエさんが好きですよ」
「ええ!?」

日吉のしゅっとしたおめめがこちらをなめるようにみつめている。どくどくどく。やばい、日吉ほんとかっこいい。日吉の視線に暑さがどこかに飛んでいって、代わりに熱さがやってくる。ギュッという畳の乾いた音とともに距離を縮める日吉が私の顔に影を落とす。ゆっくり目を閉じて、私たちは、初めてのキスを…

「入るわよー?エアコン直しに来てもらっ…」

日吉も私も日吉のお母さんも固まった、夏のおはなし。


タイミング/120803

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