〜5 years ago〜

中学3年冬。委員会終わりに出来たてほやほやの卒業アルバムをみんなより一足先に眺めていた。入学式、体育祭、文化祭、合唱祭…。たくさんの行事をみんなといっしょに過ごしてきたんだなあ。やけにしんみりした気持ちに浸りながらページをめくる私の耳にトントンと上履きが廊下を移動する音が入り、顔を上げると、同じ卒業アルバム製作委員会の不二くんがいつも通りの笑みをはりつけて立っていた。手には分厚い冊子。これまた同じく出来上がったばかりの卒業文集だ。

「文集できあがったよ」
「お疲れさま、見せて」
「はい、どうぞ」

不二くんから手渡された文集をペラペラとめくり、我が6組のページを目でなぞる。こういうのって個性がでるからすごく楽しい。ムードメーカー、マドンナ、本当に十人十色。ひとりひとり眺めていって、不二周助の所で私の滑るような視線はピタリと止まった。不二周助、誕生日:2月29日。

「不二くん、誕生日2月29日なの?」
「ああ、そうだよ」
「なんか不二くんらしいね」
「そうかい?」

クスクスと不二くんが笑みをこぼす様は、まるでどこか遠い国の王子様みたい。ドクンと胸が鼓動を打つ音がはっきり感じられた。ああ好きだなあって思う。なんでだろう。きっかけなんてよくわからないけれど、15才の幼い私はこのとき、不二くんに恋してしまったんだ。これが始まり。

〜4 years ago〜

高校1年冬。今年はうるう年、そして今日は2月29日。不二くんの誕生日。4年に一度。16年に4回。不二くんが生まれて4回目の2月29日。

「不二くん、4回目の誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「不二くんは4才になったの?」
「はは、名字さんまでそんな冗談を」
「私まで?」
「さっき英二に散々からかわれたばっかりだったからね」

不二くんはおかしそうにクスクスと口角を上げた。王子様の代名詞みたいな笑顔。美しい。私は周りにバラが見えた気さえする。「バラが似合うね」って不二くんに告げると「バラには刺があるじゃないか」ってちょっと不服そうに笑った。不二くんの別な側面が垣間見えて私はくすぐったいような気持ちになる。

「素敵な1年になると良いね」
「十分素敵な1年の幕開けだよ」
「そうだったの、なら良かった」
「わかるかい?君がいるからだよ」

きゅっと不二くんのきれいな瞳が私の目をとらえる。全身の脈という脈がざわざわと騒ぎ出す。私は一歩も動けなくなってしまって、石になったみたいに固まってしまった。不二くんはゆるやかに笑うと私の手を握って言う。

「名字さん好きだよ」

〜20 years old〜

大学2年冬。○△駅、改札前、彼を待っていた。東京ではめったにない一面の白。雪で化粧をしたみたいにホワイトに染まったアスファルトがまぶしい。2月29日に雪というのは本当に珍しいらしい。手袋越しに伝わる外気が手加減を知らずに私の肌を刺す。少しでも和らげようとハアーッと息を吹きかける。その時トン、と私の頬に当たる温かい感触。

「遅れてごめん、おまたせ、ナマエ」
「周助くん、私が早くつきすぎちゃっただけだよ」
「待たせたことには変わりないからごめん、これ好きだよね?」

はい、と渡されたのはココアの缶だった。4年たった今、周助くんは私の好みなんて熟知しているのだ。それがたまらなく愛おしくて、ぎゅっと胸が詰まる。

「行こうかナマエ」
「不二くん、待って」

腕をつかんで彼を引き止めたら、不思議そうに首を傾げた周助くんがいた。言おう、今日は4年に一度の彼の誕生日なのだ。

「懐かしい呼び方だね」
「不二くん、5回目の誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「不二くん5才になったの?」
「ふふ、どこかで聞いたことのあるセリフだね」
「4年前を思い出していたの」
「懐かしいな、僕が君に想いを伝えた日だね」

周助くんは懐かしそうに前を見据えた。あの日の制服を着た私たちが瞼の裏に蘇る。あの日、私と周助くんは恋人同士になった。4年たった今も、あの頃と変わらないで私は今も周助くんが好きだ。ううん、あの頃よりもっと私は周助くんが好きだ。そんな私を見透かしたように周助くんは微笑んで言う。

「ナマエを好きな気持ちは毎日大きくなるばかりだよ」

周助くんの指が私の頬を滑り、そのままふわりと抱きしめられる。温かさに、じんわりと染まっていく周助くんの腕の中で、生まれてきてくれてありがとうとつぶやいた。


あの光に帰る
120229/タイトル にやり
不二くん誕生日おめでとう!
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