バレンタインっていう今年初めの一大イベントが終わってもう卒業モードが漂っていた。みんな、さみしいねなんて口を揃えて言うけど私たちみんなおんなじ高校に通うのだ。それって雰囲気を悲しんでいることなのかな?隣で水やりをする幸村くんに問いかけたら、じょうろを傾ける手を止めて私に目を向けた。

「それもあると思うけど本当にさみしいんだよきっと」
「そうなのかな、幸村くんは?」
「俺は大切な人さえ周りにいればさみしいなんて思わないんじゃないかな」

幸村くんはふんわり笑って、また花壇に視線を向けてしまった。濡れて、濃くなっていく地面。私はチョコを想像した。渡せなかったバレンタイン。結局チョコは自分で食べた。私、幸村くんの大切な人になりたいっていつも思ってるのに。どうしたらなれるのかなあ。そんなことを考えていると転々と続く水のシャワーが止まって、幸村くんの私を呼ぶ声。顔を上げると、幸村くんが不思議そうな顔で私を見ていた。

「むずかしい顔してる、何かあった?」
「ごめんね、なんでもないよ」
「なら、いいけど何かあったら俺に言うんだよ」

やさしい幸村くん。それが、社交辞令でも、なんでも私はバカみたいに嬉しいんだよ。幸村くん、どうしたらあなたの大切な人になれますか?そんなの言えるわけない。言わずに飲み込んだ言葉が私の中で行き場をなくして、くすぶっていた。そんな日。

・・・

日誌に一字ずつ刻んでいく放課後。窓の外では、部活をする運動部員たち。ちらほらとばらまかれた生徒たちの声をバックに私は目を凝らすのだ。テニスコート、花壇。いつもいつも視界の先には幸村くんがいた。桜が舞う春、眩しい日差しの夏、赤や黄色が彩る秋、凍えるような冬。いつから私は幸村くんを好きになったんだっけ?

「ねえ終わったかい?」
「ゆ、幸村くん!!」
「びっくりさせちゃったかな?」

突然現れた幸村くんは子供っぽい笑みを浮かべてクスクスと笑い出した。私は恥ずかしくなって目を伏せる。今さっきまで幸村くんのこと考えていたのに、そんなことお構いなしに、なんの前触れもなく幸村くんは現れて私の心を淡く甘く揺さぶるのだ。準備運動できなかった私の心臓はドクドクと速くなるばかりだよ。

「一緒に花壇に水やりに行こう」
「うん、わかった」
「明日にはプリムラジュリアンが咲きそうなんだ」
「プリムラジュリアン?」
「きれいな花だよ」

そんなことはつゆ知らず、幸村くんはきれいに笑って、私はパタンと日誌を閉じて、席を立つ。明日は3月5日、幸村くんの誕生日だ。

・・・

3月5日は穏やかにやってきた。ところが、私の心中は全然穏やかじゃなかった。幸村くんに一番におめでとうを言いたかったのに、未だに言い出せずにいた。こういうところでチキンっぷりを発揮してしまうなんてなんて私はバカなんだろう。とにかく、SHRが終わって、一時間目が始まって、お昼休みが過ぎて、とうとう放課後になってしまった。このまま言えないなんて嫌だなあ。幸村くんの15才の誕生日は今日しかないのに。幸村くんは友達に囲まれているし、もしかしたらもう直接言えないかもしれないなあ。半ばあきらめ気味に帰り支度をする私の腕をつかむ、男子の手。

「ちょっと来て」

それは幸村くんで、私はびっくりしてしまって文字通りただ引っ張られるがまま従うだけだった。幸村くんはうわばきから靴に履き替えるときすら黙りこくってしまっている。ずんずん進んで花壇の前に来ると幸村くんはぴたりと足を止めた。

「見て」
「え?わあ…」

一面に咲き誇るきれいな花たち。色鮮やかに花壇を染めるそれは幸村くんが丹誠込めて育てたものだ。

「プリムラジュリアンだよ」
「きれい」
「花言葉は永続する愛情」

目を向けると、優しく目を細めた幸村くんがそこにはいて、私は息をのむ。

「俺は今までもこれからもずっとキミが好きだ」
「幸村くん…」

ぎゅっと、心臓を内側から掴まれていくかのように鼓動が速くなっていく。あれほど幸村くんの大切な人になりたいと願った私を幸村くんは好きだと言った。思考がついていかない。どうしよう。うれしい、はずかしい。そんな私を知ってか知らずか幸村くんはこの世のものとは思えないほど甘い瞳をすると言ったのだ。

「大切なキミがいるから俺はさみしくないよ」


今の台詞もう一回、

120305/神の子祭さまへ提出
幸村くん誕生日おめでとう!!
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