冬休みってだいたい二週間くらいしかないんだから、こんなに宿題出す意味なんて、これっぽっちもないんじゃないの。友達と遊んで、年越しそばを食べて、笑ってはいけないテレビを見て、初詣に行って、駅伝を見て、お餅食べて…やることなんていーっぱいあるのだ。だから私は宿題があんまり進まないのである。そう言い放って、机に突っ伏した。そうしたら、頭をくしゃくしゃと撫でられた。


「お前は、時間があろうとなかろうとやりたくないんだろう?」
「さすが蓮二だね!その通りだよ」
「少しは否定すべきだと思うが」
「私は蓮二には嘘をつけないからね」


話すために、持ち上げたおでこをまたかくんとコタツのひんやり冷たい固い板に乗せられた腕に押し付ける。茶色い木目が焦げ茶に変色していくのを確認しながらゆっくりまぶたを下ろしていく。


「初詣」
「うわっびっくりした」
「行きたがっていただろう?」
「うん、行きたい」
「ならば、課題が終われば行こう」
「え…」
「まあ、無理にとは言わない。俺も着物を用意していたんだが、お前が行きたくないなら仕方な…」
「行きます行きます!」


蓮二の着物姿とかそんなもの見たいに決まっている。私は急いで、シャーペンを持って宿題に取り掛かる。チラリと顔を上げると、蓮二が緩く笑っていて胸が高鳴った。





「うっ」


きゅっと帯を締められて思わず声が漏れる。まるで、お腹を搾られているような感覚だ。


「お母さん苦しいって」
「これくらい我慢して可愛くならないと蓮二くんに嫌われちゃうわよ」


ブーブーぶーたれていると、コンコンとドアをノックする音が、私とお母さんの間に割って入った。どうぞと返すと、藍色の着物をさらりと着た蓮二が控えめに入ってきた。お母さんは「まあ素敵」なんてデレデレしだす。血は争えないってやつだろう。蓮二は礼儀正しいし、頭良いし、高身長だしでお母さんもお気に入りなのだ。まあ、印象悪いより全然良いんだけどさ。


「蓮二くん一人で上手に着付けられてるわね、さすがだわ」
「いえ、それほどでもないです」


蓮二がふと微笑む。私には見せないタイプの微笑み。にっこにこ猫かぶったお母さんが去っていって、部屋には沈黙が訪れた。なんなんだろう、この間。しばらくして、蓮二がくすりと笑いを零してするするとほどけていく沈黙。心地よいなあ。私は蓮二に向き直る。


「どうしたの?」
「いや、馬子にも衣装だな」
「ひどーい」
「ふふ、可愛いということだ」
「もう…」





「何をお願いしたの?」
「さあな」


帰り道を二人並んで歩く。蓮二はどこか楽しそうに笑っていて、いたずらをする子供のような目をすると「知りたいか?」と言う。私がうなずくと、蓮二は優しく私の手を包み込む。まるで手が温かいお湯に浸かっていくみたい。蓮二の手はそれほど温かいわけじゃないけど、そういうのじゃなくて、もっと気持ちの部分の問題だ。


「そうだな…ナマエから教えてくれ」
「えー恥ずかしいんだけど」
「『蓮二とずっと一緒にいられますように』か」
「ちょっと!心読まないで」
「データから予測したと言ってほしいな」
「今年もデータマンは健在だね」


蓮二の唇が緩く弧を描いた。もう、私の考えていることなんて蓮二には手に取るようにわかるんだろうな。そう考えると、なんだかくすぐったい。磁石に引き寄せられるみたいに蓮二を見ると、閉じられたまぶたがゆっくりと開けられて視線がぶつかった。


「それと、さっきの質問だが」
「うん?」
「俺もお前と同じ願いだ」


いつまでもあなたのものでいいです
120106/title ごめんねママ
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