「セレネ、いくらシエルでも一人では危険だわ。行ってあげなさい」
「リフィル、」
「二度は言わなくてよ、セレネ」

リフィルに押されて、追いかけるしかなくなった。シエルの気持ちは分かる分、余計に声をかけにくかった。けれど、リフィルに言われ(ついでに怖かったので)追いかけるしかなくなってしまった。

見つけた彼は海を見ていた。ソダ島から見える大陸。もしくは、その先の救いの塔かもしれないけれど。

「なぁセレネ、リフィル怒ってただろ」

意外にもシエルは普通だった。思わず、苦笑いしながら隣に並ぶ。こちらを見はしなかったが気付いただろう。


「怒ってたわね」
「やっぱりなぁ…」

困ったように髪をかきむしっていた。今までの保護者に比べたら、リフィルは怖い。それは分かっていた。それは、色々な意味で怖いのだが。

「……シエル、」
「なんだ…うぉ!!?」

声をかけたが、遅かった。追いかけてきたらしいコレットが、シエルに抱きつこうと背中に追突した(私にはそう見えた)シエルはそのまま前のめりになり、海にダイブしそうだったが、なんとか踏み止まったらしい。
えへへ、と笑いながらコレットは私とシエルの間に入ってきた。


「危ないだろ!せめて違うところで…」
〈えへへ、ごめん〉
「謝らなくていいわよ。海に落ちなかっただけマシじゃないかしら?」
〈………え?私の声、聞こえるの…?〉
「聞こえるな」
「聞こえるわね」


クルシスの輝石。私の持っているユリアの譜石が同じそれだ、とあのアホ神子は言っていた。それならば第七音素に似たものが関与しているのだろう(最も同じそれかもしれないが)ならば、この状況にはローレライが関わっているのだろう、そう結論付けた。


〈ふふ、嬉しいな!〉
「なぁコレット」

嬉しそうなコレットの声をシエルは遮った。そのシエルの声にびくっと身体を揺らしたコレット。誤魔化すように笑うコレットだけれど、私たちには通用しない。

「それ以上、何を失くすつもりだ?」
〈……私、は…〉
「世界再生。その対価が、それだけなわけないだろ。………死ぬつもりか?」

重なって見えるのだろう。あの日の自分と。世界を救うために生まれた存在と、世界を救うために犠牲にされた存在と、なにがそんなに違うのか。疎まれるのか、尊敬されるのか。たったそれだけだ。

「…心配しなくても、ロイドには言わないわよ。言って欲しくないなら、ね」


その言葉を聞きながらコレットはまた笑った。それは、今度は困ったように。

〈なんでバレちゃったのかな〉
「同じだから、よ」
〈……何が?〉

コレットの問いかけには答えなかった。先ほどのシエルとしいなのやり取り、それから言いかけた私。コレットはもう気付いたのだろう。何も聞かないのは、コレットも分かっていたから。


「コレット、お前はそれでいいのか?」
〈………うん。私にしか、出来ないから。私にしかこのシルヴァラントは救えないから〉

輝石を見ながら、うつ向いたコレットがまた顔を上げた。それは、満面にも似た笑みだった。思わず、顔が歪んだ。(同じだ。生まれた時から、死ぬことは決まってた…。……いや、同じじゃないか。俺は、死ぬ為に創られた存在だ。コレットは、救う為に生まれた存在…。大違い、だな)
ちなみにシエルの考えはバレバレだ。だから、殴ってやった。その行動をコレットは不思議そうに見ていたが。


「い、いてぇ…」
「ネガティブ思考をどうにかしてから言いなさい」
「………なんで分かったんだ…」

そのやりとりに、くすりとコレットは笑った。それを見ながら、私は苦笑いにも似た笑みを浮かべていて。ロイドに言わないのは、きっと彼が止めるからだろう。そしたら、その手を掴むかもしれないと、コレットが思っているから。少し遠くからロイドとジーニアスの声が聞こえて来た。その声に気付いたコレットは、走り出そうと私たちに背中を向けた。けれど、何かを思い出したように、振り返る。


〈早く戻って来てね!〉

そう言い残して、走り出した。ロイドに向かってダイブしたコレットを受け止め切れずにロイドが倒れたのが少しだけ見えて、笑う。追い掛けようと、足を向けた瞬間に腕を掴まれた。振り返ればシエルが私を見…睨んでいた?




「セレネは、これでいいんだな?」

シエルの質問に笑いながら、手をさりげなくほどく。怪訝そうな顔をされて、今更聞くような質問でもないだろうに。

「今更ね。これでいいのよ」
「……なら、いいけど」

どこか納得行かないような呟きを残して、私を追い越してロイドたちに向かって歩き出したシエル。それ、私を引き留めたヤツのする行動かっとため息をついて。ジーニアスに抱きつかれているシエルを見ながら、その表情は笑ってはいないと自分でも気付いていた。

「…私だって、分かってるわよ」


でも、どうしようもないことだって、あるのだから。それを分かっていて、聞いているのだろうし。
呟きは波の音に消えた。最早慣れてしまった、ロイドの「姉さん」という言葉を聞きながら、密かにため息をついた。重たい足取りのまま、彼らに向かって歩き出した。


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