「干渉し合うって、どういうことだ?」
「マナを搾取し合ってる。片方の世界が衰退するときその世界に存在するマナは全てもう片方の世界へ全て流れ込む。その結果常に片方の世界は繁栄し、片方の世界は衰退する。砂時計みたいにね」
「待ってよ!それじゃあ今のシルヴァラントは…」

最後の例えは"搾取"の言葉に首を傾げたロイドのための説明なのだろう、恐らく。噛み砕いた説明にロイドも頷いていた。そんなことも気にせずに声を上げたジーニアスに答えたのは、シエルだった。しいなはそれを苦笑いに聞いていたけれど。



「そういうことなんだろ?シルヴァラントのマナはテセアラに注がれている。だからシルヴァラントは衰退する」
「そして、マナがないおかげで作物は育たない。女神マーテルと共に世界を守護する精霊も、マナがないからシルヴァラントでは暮らせない…というところかしら」
「はは、さすがシエルとセレネ。当たりだよ」

笑ったしいなに対し、リフィルはうつ向きながら指を顎に当てていた。思考しながらも話を聞いているリフィルに、これが普通の反応なのだろうと思う(対して平然と聞いている人もいる)(それは恰かも始めから知っていたみたいに、)


「じゃあ神子による世界再生はマナの流れを逆転させる作業なの?」
「そういうことだね。神子が封印を解放すると、マナの流れが逆転して封印を司る精霊が目を覚ます」


そして、しいなは世界再生を阻止するために、恐らく国王に送られてきたのだろう。レネゲードの力を借りて、超えられないはずの空間の亀裂を突き抜け、テセアラを守るために。それは、私とは違う目的だ。いくら私でも、異世界にまで構っている余裕はない。ただ欲しいのは、レネゲード(いやユアンか)が持っている情報。それだけ。

「それは、シルヴァラントを見殺しにするってことか?」
「そういうけど、あんたたちだって再生を行うことによって確かに存在しているテセアラを滅亡させようとしているんだ!やってることは同じだよ」

最後の台詞は、少しトーンが落ちた。そうでもしなければロイドと言い合いになっていたかもしれない、と苦笑い。


「……信じられないわ…」
「あたしが証人だ。あたしはこの世界では失われた召喚の技術を持っている」

リフィルの呟きに対して、しいなはキッと睨むように言った。確かに、それはリフィルでも分かっただろう。彼らの様子からしてシルヴァラントには精霊を召喚するという技術はないのだろう。


「なぁ、他に道はないのか?シルヴァラントともテセアラもコレットも幸せになれる道はさ!」
「俺だって知りたいよ!」

やはり、声を上げて言い合う結果になってしまった。分かり切っていたことだけれど。そんな都合のいいものは存在しない。誰よりも分かっているのは、私だ。あの時もどうしようもない状況を、どうにかしようとしていた。(ああ、彼らはかつての私たちに似すぎている)(今はもう、そんなのはないと諦めてる)



「そんな都合のいいものが存在するわけねぇだろ。全て助けようなんて、無理だ。何かを救うなら、何かを切り捨てないと」

二人の言い合いにもなりかねない状況を止めたのはシエルだった。少し、疲れたような呟き。もう諦めてしまった、私たちだから。だからこそ彼らの話は聞いていて疲れるのだろう。

「あんたに、分からないだろ。此処はあんたの世界じゃないんだから」

しいなは、そう言ったシエルに腹を立てたようで。それもそうだろうな、と思いながらため息をついた。

「あぁ、分からないさ。けどお前らよりよっぽど分かってるつもりだ。そうやって求めて、探して、たどり着いた答えは…」

そこから先はなかった。それにロイドたちは首を傾げていた。答えは、あった。けれどそれは、犠牲の末の答えだった。

「……誰もが幸せになれる答えなんか存在しなかったんだよ」

呟きながら立ち上がったシエル。リフィルが咎めるような声を上げた。構わず立ち上がったシエルは、ローレライの剣を無意識に、だろう。握り締めながら、振り返らずに言った。


「………誰も、無意味な死をしなくて済む世界があるなら、見せてくれよ。俺たちに出来なかったこと、成し遂げてみろよ」

表情は見えなかった。止めるようにシエルの名前を呼んだロイドに、片手を上げただけだった。ロイドに期待しているのは、分かる。昔に似ているからかもしれない。でも、あの頃、もう全てが手遅れだった。だから、模索するだけ、時間の無駄だった。


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