「…コレット、もしかしたらだけど。あれって神託の石板じゃないのか?」

シエルが指したのは、私の背後にあったそれ。何度か見ていたから、よく分かる。コレットは嬉しそうにふらふら、と向かって言った。複雑な気持ちだったのは、言うまでもない。コレットは天使に近付く度に人間らしさを失ってしまうのだから。そうは、言っていられないけれど。石板に手を当て、上へ…遺跡に続く道が出来ていた。興奮したようなロイドはコレットの手を引きながら走って行ったのが見えた。


「…しいな、貴方、召喚士よね」
「へ?あ、あぁ…まぁ一応…」
「そう。ちょうどいいわね。ねぇシエル」
「は?」
「そうだな。まぁセレネが此処で使えるかもわかんねーし、契約してったらどうだ?そうしたら封印が解けてセレネも使えるようになるかもしんねーだろ?」
「……はぁ?!」
「一理あるわね。けれど、意識集合体は勝手が違うから分からないわよ?まぁやる価値はあるわね」


スタスタと歩きながら、私とシエルは話を続ける。その会話を聞きながら、しいなが後ろで叫んでいたのは聞いた。けらけらと笑いながら、それに答えることもなく歩き続ける。しばらくして、後ろからしいなが追いかけてくる音が聞こえた。



「じめじめしてんなー。早く帰りてぇ」
「出た、ロイドの飽き性…」

先頭を歩くロイドはぶつくさ言いながら歩いていた。その様子を、数歩後ろをあるいていたジーニアスが呆れたようにため息をついていて。最初の封印の時な様子からは到底態度が違う。


「この辺りはウンディーネの領域なんじゃないかしら。私の為にも契約してくれると助かるわ、しいな」
「い、嫌だよ!!」
「契約…?」

ピタリ、とロイドと共に前を歩いていたリフィルが止まった。誰もが、まずいっ!と言いたくなるほどに、綺麗に時間が止まっていた。

「契約というのは、精霊との契約のことか!!召喚技術は失われたと聞いたが、まだ残っていたのか!ふはははは!!興味深いわ!しいな、契約なさい」


急に真面目になって迫ってきたリフィルにしいなは後退りしていた。遺跡モードのリフィルが真顔になると良いことがない。アスカードで嫌というほど学んだことだったりする。

「無理だよ!契約には試練がある。もし失敗したら……」
「あぁ、試練か…ひどかったな」
「ひどかったわね…」

私とシエルの呟きにバッと振り返ったしいな。試練、というのがイマイチ理解出来なかったらしいロイドやコレットにも分かりやすいように説明する。要するに、戦えばいい。そして私たちはその試練がひどかった。雪山、火山、半ば町中、森の中。場所もそうだが、その時の戦闘メンバーに回復を使えるのが一人という有り得ない状況で試練を受けたの。



「………そ、れは…」
「ちなみに、その時の所持アイテムもひどかったんだよ。買い出ししとけっての」
「アップルグミ2つ。そして買い出しは貴方だった」

よく頑張ったと思うわよ。アップルグミ2つと回復役一人のメンバーでよくやったわよ。それが試練か!と納得するロイドに訂正を入れたい。間違いはないけれど、アップルグミ2つで挑むのは無理があったの。全滅しかけたもの。


「失敗しない人間なんかいねぇよ」

それでもまだ渋っていたしいなに向かって、ポツリとシエルが呟いた。その声にしいなは顔を上げる。あいつがそれを言えるのは、自らが過ちを犯したと、未だに傷深く残っているから。一人で背負うな、なんて。今の私には無責任な言葉だ。


「誰だって失敗する。失敗しない人間なんかいねーよ。試練は戦いなんだ。全ては結果だよ。最終的に生きてた奴が勝ちなんだからさ、戦いは」

誰も死なせるわけにはいかない。試練も、生半可なものではない(色々な意味で身を持って体験した)
そしてあれは誰の受け売りなんだか←


「しいななら大丈夫だよ!ね、あたしたちもいるから!絶対に大丈夫っ!」
「そうだよ!失敗を怖がってちゃ駄目だって!(姉さんなんか料理失敗しても懲りないのに)」

コレットはともかく、ジーニアスは何だか違うことを思い浮かべている気がするのだけれど?


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