「…仕方有るまい。神子の意志を尊重しよう」

そう言ってクラトスが剣を抜いて、東の人間牧場を仕切っているマグニスを真っ直ぐに見ていた。結局はクラトスもロイドに甘いのね、なんて。そんなことを思いながら。クラトスの言葉に神子という単語が出てきたせいか、町の人間の反応は早かった。天使の羽根を出しながら、チャクラムを構えているコレットへと次々に視線と言葉が投げ出されていた。


「…みんな、分かっているの?ディザイアンに逆らうとこの街もイセリアのように襲われるのかもしれないのよ?」

リフィルの言葉に、先程まで傍観を決めていたらしいしいなが、お得意の武器を構えながらコレットに並んだのが分かった。その様子がどうにも楽しそう…というのかしらね。そんな表情に見えて、やっぱり彼奴は暗殺には向いていない。そうハッキリと理解して苦笑い。


「何があったか知らないけどね、目の前で苦しんでる人間を助けないのは納得がいかないよ!」


そう言って処刑台に上げられている女の人の首に巻かれていたロープを持っていたお札を投げて切り離した。苦しそうに咳き込んでいる母親に、女の子が近寄る。その側にいたディザイアンは既にクラトスに倒されているようで。そんなしいなを見て、嬉しそうにコレットが笑っていた。それもそうだろう、ついこの間まで“敵”だった人間なのに(偶に思う。“敵”…って、誰?)


「二度と同じ間違いは繰り返さない!そうなる前に、牧場ごと叩き潰してやる!!」


意気込みながら、マグニスに対して魔神剣を放つロイド。それはあっさりと避けられてしまったものの、その勢いは留まることを知らないだろう。ふと、リフィルの視線が最後の頼みだとばかりにこちらを向いた。ただあいにくながらシエルは既に武器を抜いてしまっている。それに気付いたリフィルは深い溜息をついていた。

「無茶だわ…」

心の底からやめてくれ、と叫んでいるような声だった。1人くらいこんな冷静な人間がいてもいいのかもしれない。ただ私は町中で武器を振り回したくないから、抜かないけれど。勿論私もシエルも敵と見なされたのか、襲いかかってくるディザイアンは少なくはない。やり過ごすには、少し多いかもしれない。それでも剣を抜かない私にシエルが苦笑いをしていたのは知っている。


「……セレネさ、せめて自分のことくらい自分で守れよ」
「あら、別に私が加勢するまでもないと思うけれど?
「…わざとだろ」
「わざとよ」

そんなことを指摘されて、軽く流す。別に私まで加勢しなくても、ここにいるのは下っ端ばかりだろうし。ロイドたちがかなりやる気になっているみたいだから…大丈夫じゃないかしらね。そうシエルに向かって笑いながら、またコレットたちへと目を向けた。


「私、戦うよ。みんなのために」

祈るようなコレットの声が聞こえた。それに、町の人たちの声が大きくなる。結局、心配になってきたのかリフィルも武器を握った。その様子を見て、これ以上此処にいるのは危険だと悟ったのかディザイアンは私たちに後目もくれずに退避していった。マグニスの命令かどうかは分からないが。ディザイアンの退避を見ていたら、いつの間にかマグニスもいなかった。そんな始末だ。


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