「駄目よロイド!ここをイセリアの二の舞にしたいの!?」

よほど出遅れたのか、広場に着いたときに聞こえたのはリフィルのそんな声だった。処刑台と思われるようなものが広場におおっぴらに置かれている。それを苦い表情でシエルが見ていたのに気付いた。それから、リフィルに怒られているロイドはもう既に剣を抜いている。その表情は歪んでいて、それでも真っ直ぐな目をしていたのが見えた。

「だからって!目の前の人間も救えなくて、世界再生なんかやれるかよ!!」

真っ直ぐなロイドの目に、思わずかリフィルが溜息をついたのが分かった。聞こえたロイドの声に、シエルが処刑台から目を移す。その視線が、少し揺らいだのが見えた気がする。そんなロイドの隣でおもむろに背中からチャクラムを取り出して、握ったコレットがいた。その目はやはりロイド同様に真っ直ぐな目だった。あの時の私たちにはあったのかもしれないもの。でも、多分。あの日を境に失った…というよりは、捨ててしまったものかもしれない。あの日、が正確にあるわけじゃないんだけれど。


「私も!こんな処刑を見逃すなんて出来ません!!」

ロイドの存在に気付いたらしいディザイアンが襲いかかってこようとしていた。それに対して、コレットがチャクラムを投げる。綺麗な孤を描いて戻ってきたチャクラムを手に取り、真っ直ぐにリフィルたちを見ていた。ふと、そんな強い視線を遮った不愉快な笑い声が聞こえてきた。似たような人間を知っているような…気がする。


「お前が例のエクスフィアを持っているという小僧か。こいつはいい!!此処でお前のエクスフィアを奪えば、五聖刃の長になれる!!」

どこかで似たような奴を見た気がするんだけれど…誰だったかしら、なんて思っていたら。隣で笑っていたシエルが「モースじゃねーの?」なんて呟いていた。あぁ、そうかもしれないなんて苦笑いしながら。最も自らの地位とかに貪欲なところとか、だけれど。モースといえばテセアラの教皇も負けていないほど似ているけれど。


「お前ら、あのガキを狙え!」

マグニスの声でディザイアンが一斉にロイドの方へ視線を向けた。その時には既に詠唱をしていたいのか、ジーニアスの魔術の声が響き渡る。その声と同時に、地面から圧縮された水流が上空に向かって打ち上げられた。ジーニアスの魔術で殆どが動けなくなったみたいで、残りのディザイアンの方にはロイドが突っ込んで行った。それを呆れたようにクラトスとリフィルは見ているわけで、勿論コレットはロイドの援護に回っている。大陸横断の結果なのか、これまでの戦績の結果か。確実に敵を仕留めていくロイドを見て、シエルが顔を歪ませていたのが分かった。それを見て、思わず声をかけた。


「…どうしたの?」
「……いや、さ…。彼奴ら、人を殺すってことがどういうことか…分かってんのかなって」

少し寂しそうに笑いながら、自分の後ろに迫っていた“敵”に対していつの間に抜いていたのか、振り返らずに持っていた剣で刺した。見てもいないのに、急所をつけるようになったのは、今までの経験…だろうけれど。倒れた音を聞きながら、シエルが私から視線を外した。その視線の先にはロイドがいて、何を考えているのかよく分かった。

人の命はそんなに軽いものじゃない。それはロイドにだって分かっているはずで。ただ、あれは“敵”だと認識した時からその人にも大切な人がいること、信念を持って行動していること。それを忘れてしまうんじゃないか…って。ただそれを私たちが理解してしまっているのは……あの悲しい出来事があったからなのだろうけれど…。


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