「ロイド、危ない!」


コレットの声が聞こえて、剣に手をやる。いつから起きていたのか、クヴァルが武器を手にロイドへ振り下ろそうとしていたところだった。セレネに制され、駆け寄ることはしなかったけど。ロイドをかばうように倒れたコレットは攻撃を受けたのか結構な血を背中から流していた。あれは…さすがにまずいんじゃないか、と思い振り向けばセレネはまったく動くつもりはなさそうで。

「っ…セレネ!」
「ちょっと待って。確認したいことがあるの。大丈夫、コレットは死なないから」

焦ったような俺の声にやけに冷静にセレネが返した。それに思わずため息をついて、死なない、じゃなくて死なせないの間違いだろとか思いながら。クヴァルはクラトスによってトドメを刺されていて、その2人の会話から、何かの違和感を感じたけどそこは今、気にすることじゃなかった。


「大丈夫だよ。なんかね、痛くないんだ…えへへ、おかしいよね」

コレットは今だ意識を保っていた。そのことに眉をひそめる。あれだけの出血と、それなりの痛み。絶対に気を失っていてもおかしくないのに、どうしてコレットは意識を保っているのか、それに、本当に痛くないかのように笑ってる。しいなに声を掛けられ、慌てたようにリフィルはコレットに治癒術をかけてたけどあの出血じゃすぐには塞がらないだろう。



「…封印の儀式、天使疾患、神子…おかしいと思った」

セレネの呟きが耳に入ってきて、頷いた。俺も、マナの守護塔あたりからおかしいとは思っていた。天使疾患のあとから、コレットの様子が変なんだ。体調が悪い、とかそういうのじゃなくて…。なんて言ったらいいのか分からないけど。

「音素…マナだっけ?そんな単純な話じゃないと思うだけど」
「なんていうか、マナそのものが入れ替わっている感覚ね」
「音素注入?」
「あぁ、それ」


どこでそれを聞いたのかもう覚えてない。グランコクマだったか、ダアトだったか。忘れたけど、確かそんなことがあった。素養の無い者が音素を注入すると精神汚染されるって話。それとはちょっと違うかもしれないけど。俺みたいに、髪の色を変える為…とか、そういう音素の羅列を変えるとか言う単純な話じゃない。もっと複雑な感じがして、

「…調べた方がいいかしら…」
「レネゲードか?」
「そう、ね。それしかないわ」


いつどうやって接触するのかが問題だけど、そう言ったセレネはコレットの方へ近付いていった。コレットを動けるようにするんだろう、そう思って。溜息をつきながら俺もみんなの方へ駆け寄った。今まで話を聞いていなかったから分からなかったけど、ジーニアスの疑問の声が耳に届いた。何の話だ、と思いロイドを見た。強く、手を握ってた。

「コレットは天使に近付いてる。でも、眠ることも出来ない。寒さも暑さも痛みも何も感じない。涙だって出なくなって…天使になるって人間じゃなくなることだったんだよ…」

問題はどこでそれが起こるか、だな。1人でそんなことを考えていた。封印を解放した時点で、か。恐らく天使疾患で完全に何かが変わってるんだろうけど。それをどうやってるのか…それさえ分かれば。


「…リザレクション」

セレネの譜術が聞こえた。その治癒術は、1人対象ではなくて譜陣の展開する上にいるもの全てが対象で。俺らも勿論対象に入っていたからそれなりにあった傷は癒えた。完全に動けるようになったコレットが笑顔で立ち上がり、ロイドの手を握っていた。

「ロイド、今は大丈夫だから。今は逃げよう。ね?」
「……あぁ…」



どこか腑に落ちないようなロイドにコレットは困ったように笑った。そんな2人を見ていた俺は、不意に背中を叩かれて振り返る。そこにはセレネが音叉を握っていた。その音叉で俺の背中を叩いたんだろう。…やけにすっきりしてる笑顔に、なんか嫌な予感感じるんだけど。

「此処、爆破して」

お願いじゃなくて最早命令だ。しかも嫌な予感ばっちり当たったし。そんなことを思いながら二つ返事をして機械の前に立つ。セレネの言葉に、今まで辛そうだったロイドもコレットも一瞬ぽかんとして口を開けていた。


「……それが一番いいわね…」
「え、爆破?」
「終わった」
「「ええぇ!!?」」
「あと3分だから」
「嘘ー!!」

状況理解出来ないようなジーニアスがセレネに問い掛けた瞬間。あっさりと俺は爆破装置を起動させた。叫び声をあげたジーニアスに更に追い打ち。3分で逃げられるのかと言えば…まぁ逃げられないこともないだろなんて適当に返事を返す。


「あと2分30秒。ほら、きりきり走りなさい」

セレネに急かされて、ロイドとジーニアス、コレットは真っ先に非常口を見つけて走っていった。クラトスとリフィルに睨まれながらセレネはしいなと一緒にそこを出て行った。


|
[戻る]