そんな感じで(どんなだ)明日の朝早くにアスカード人間牧場へ忍び込むことが決まった。と、いうわけで。


「………眠い…」
「我慢しなさいシエル」
「いいんだけどさ…」

夜中、シエルを叩き起こして訪れたのは、アスカード人間牧場。勿論今、忍び込んでいるのは、私とシエルだけ。寝ずの番をしていたクラトスにはきちんと伝えてきたから問題はない。忍び込んだ理由は、明日潜入するのに多分必要なディザイアンの服を手に入れること。そしてあわよくば建物の内部地図の丸暗記(シエルが)


「セレネあのさ…忍び込む理由は分かったけど……わざわざ超振動で内部に侵入する必要ってあんの?」

まぁ、服なら外回りの連中を捕まえればいい話だけれど。ほら、あわよくば内部地図を…ってね。ちなみにちゃんと私とシエルはディザイアンの服を着ています。それからメインコンピューターに細工をさせていただきました。だってロックシステムがあって面倒だったの。メインコンピューターからのアクセスで解除出来るようにして。それから様々なデータの引き出しぶっちゃけハッキング。


「地図は?」
「ん〜細かいところは複雑だからアレだけど、大体は。多分方角で分かる」

ずいぶん頭がよくなっちゃって…なんてしみじみアホなことを考えていたり。シエルがメインコンピューターにアクセスして、内部地図を暗記している間に私は人間牧場内を物色していた。グミとかグミとかガルドとか適当に手に入れたりなんかして。

「…ちょっと怪しい部屋を見つけたのよ。オートロックの、」
「……んー…あ、分かった」

私の言った部屋が分かったのか、先導切って歩き出すシエル。…行こうとは言ってないんだけれど、まぁいいか。とか思いながら。何回かディザイアンに出会しながら(私たちは巡回と思われていたみたい)なんとかその怪しい部屋にたどり着いた。


「ん?声がす…んぐっ」
「馬鹿、静かに」


扉の向こうから聞こえてきた声に、シエルを黙らせる。思いっきり頭を殴ったから…さすがに痛そう。ちょっとだけの罪悪感を持ちながら、盗聴…盗み聞き…?に集中する。扉がけっこう分厚いみたいで、言葉は断片的にしか聞き取れない。途切れ途切れに聞こえるから、単語を拾うのも難しそうで。ただ聞き取れた単語は2つ。1つは聞き慣れない言葉だったけれど。もう1つは確実に見逃せない単語だった。

「魔導砲、それから…」
「音素、か。聞き捨てらんないなぁ…」

呟いたシエルに同感、と頷いた。音素がどうの、はすぐに調べるのが難しそうで。まずは魔導砲から調べた方がいいかな…なんて思った瞬間だった。後ろの通路から足音が聞こえた。それも、沢山。まさかメインコンピューターにアクセスしたのがバレたのか、と思い。此処にいる理由はもうない。扉に聞耳立てるシエルを無理矢理引き矧がした。

「うわっ!」
「馬鹿、逃げるわよ!!」

引っ張られたせいか、シエルが声を上げた。そのせいで、分厚い扉の向こうから「誰だ、」と問いかける声が聞こえた。ヤバい、とどちらとなく呟いて。その分厚い扉が開いた頃には、私たち逃げ切ったあとだった(もちろん超振動で)



「……あ、危なかった…!」
「誰のせいよ」
「すみません」

超振動を放ったのはシエルだった。ローレライの剣を持っているだけ、私より第七音素が安定している。だから、なんだろうけれど。降り立ったのは、ルインの近くで、ディザイアンの人間牧場からはだいぶ離れた場所だった。

「収穫あり、かな」
「魔導砲…よりも音素の方だよな、」

呟いた私の言葉に対して、ふにゃりと情けない顔で笑った。その表情を久しぶりに見た気がして、思わず苦笑いをしたりして。空には高い月。青白く光る月を見上げながら、戻ろうか。と呟いた。
今は、調べものは出来そうにないから、

「セレネ、」
「なに?」

シエルに呼ばれて振り返る。苦笑いしながら、私の服を指差した。自分の姿を見て、シエルの言いたいことをようやく認識した。

「その前に着替えようぜ。クラトスに殺されるから…多分。」
「………忘れてたわ」


ディザイアンの姿のままだったことが、すっかり頭から飛んでいたり。


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