…と、そんなわけで音素の変化に弱い私にはちょっと影響が強かった。干渉を受けて、すぐに体内の音素循環が悪くなったりするのに、気を付けなければいけなかったのに。…ひょっとしたら、シエルはめまいがしたのを、気付いたのだろうか。
「ねぇ、貴方気付いているのよね」
それだけ音素変化に敏感だったなら、と付け足した。私の言葉に立ち止まらずに、私の手を引いて歩くシエル。夕陽で何故か染まっている蒼い髪がオレンジに見えなくもない。気付かないわけがないんだけれど、私でも分かったんだから。とは言わないけれど。
「天使化、」
私の呟きに、一瞬だけシエルの足が止まった。振り返らずに、また歩き出したけれど。その沈黙はの意味肯定なのだろうか。…まぁ恐らく肯定の意なんだろうけれど。憶測で何も言わなくなったシエルは、どこかの誰かに似てきたんじゃないかと。少しだけ思った。
「……あの頃の、」
小さな呟きは確かに私には聞こえていた。ただ、目の前にロイドたちが見えてきたせいか。手を離して、それ以上は何も言わなかった。言いたいことは、何となくわかって、苦笑いするしかなかった。
あの頃の、世界みたいにな、なんて。そんな呟き、聞きたくはなかっただけかもしれない。
小さく苦笑いしている私に気付いたらしいコレットが慌てたように走って来た。まだ若干距離があったせいか(あまり関係ないかもしれないが)少しコレットが転びそうになっていた。何をそんなに急いでいるのか、と思いながら転びそうなコレットを支える。すぐにばっと顔を上げたコレットに、少しだけ驚いてしまった。
「セレネ!ちょっと来て〜」 「え?あの、コレットっ!」
思い切り手を引かれて、少し倒れそうになりながらも一件の家の中に引きずり込まれた。わけも分からないまま引っ張られ、ただ相手がコレットだから文句は言えない。その家の中にはリフィルともう一人、どうやらアイーシャという名前らしい彼女がいた。自己紹介なんてロクにせずに何故かいきなり着替えさせられた。理由くらい説明して欲しい、と思って。どう考えても踊り子の衣装のような気がする。
「…一体どんな経緯が……」 「えっとね、風の精霊さんがいけにえを要求してきて…」
コレットの話によれば、風の精霊が要求してきたいけにえ、つまり踊り子にアイーシャが選ばれてしまったらしい。そしてリフィル曰く、此処が次の封印でいけにえとはマナの神子のことかもしれない。…そんなわけで調べることになったらしい(本当はリフィルが調べたいだけ) そんなわけで、代わりにリフィルが踊り子を申し出たそうだが、衣装のサイズが合わずにやめたらしい。…さすがに神子にさせるわけにもいかないものね、
「リフィル、最近太ったんじゃないかしら」 「黙りなさい」
笑顔で言われ、しかも頭まで叩かれてしまった。それからしばらく、お喋りはなく私は拒否権すら与えられずに、ズルズルと動作まで教えてられて、やるしかない、この状況。最早諦める以外の余地はなさそうだった。
「……はぁ、諦めたわ…」
それに、あの不安定な音素は気になっていたのよね。小さな呟きはコレットにしか聞こえなかったらしい。 リフィルはといえば、何故かぶつくさ言いながら着付けをしている。(正直やめてほしい。怖いから)
「よし、出来たわよ」 「あぁ本当にやるのね…」 「セレネがやらなくて誰がやるのかしら?さぁ行くわよ」
意気揚々としているリフィルに半ば引きずられる形でその家を出た。もちろん逃げられないように、か。石舞台にまでそんな形で連行。…最近捕まる率が高いのは気のせいかしら
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