説明不足だ、の一言でルークの足に再び蹴りを入れた私を見て、あれ?セレネってこんな性格だったの?今までのイメージはなんだったの?とジーニアスが少し離れたところで呟いていた。
「いや、だから音譜帯で再構築中に穴に落ちて、ローレライと間違えてユリアに召喚されて創世暦時代にいましたって言ったじゃん」 「好きね、穴」 「不可抗力!俺のせいじゃぬぇ…」
半分信じてないけれど。そもそも音譜帯の穴ってなんだよ、と聞きたいところではある。まぁルークに分かるとも思っていない。小さくため息をつけば、諦めたと分かったのかルークが立ち直る。一通りやりとりを終えたのを見たのか、恐る恐る私とルークにロイドとジーニアスが近付いてきた。
…その様子は本当に“恐る恐る”だったのが一目見てすぐに分かった。
「…あの、姉さんの知り合い、か?」 「姉さん?セレネが?」 「って、呼ばれてるだけ」
ロイドの言葉に答える前に、それが気になったらしいルークに簡潔に答えれば、納得してそっか、と呟いた。そしてロイドの言葉には、まぁ知り合いっちゃ知り合いだなーとあやふやに答えていた。
「え?ってことは、異世界から来たってこと?」 「そう、なる、か?」
私に聞くな、とルークを睨めば、ごめんと謝られた。どうして此処に来ているのか、は聞いていないから私に聞かれても困る。
話してくれなかった、ということは、今は必要ない、もしくは、今は話せない、のどちらかだ。そのうち話してくれるだろうと思っているから、聞くこともしない。
「あ、俺はロイド!ロイド・アーヴィングだ」 「僕はジーニアスです」 「あー、…俺はー…」
あれ?どっち名乗ったらいいんだ?と首を傾げているルークに、私の方が首を傾げてしまった。ぶつぶつと何かを呟いているルークの姿に、思わず眉を寄せる。その私に、ルークは気付いてないんだろう。
「えーっと、じゃあ、一応シエルで」 「なにそれ」 「いや、なにそれって言われても…色々、諸事情というものがあるっつーか」
ルーク、ではない名前が聞えて、さらに顔を顰めるとルークの困った表情が見えた。当然、“一応”なんて偽名めいた言葉を交えて言ったその言葉に、ロイドもジーニアスも困惑しているのが見えたが。
「シエル、でいいんだよね?」 「そうしてくれー」
ひらひらと、ジーニアスの言葉に頷いたルークにため息を一つついた。大方、創世暦時代にいたときに名乗っていた名前なのはなんとなく分かったけれど。どうして変える必要があるんだろう。
最も、居場所を奪ったと思っている節があるから、ということもあるだろうけれど。今更名前なんてどうでもいいか、と変な納得をして、ルークをシエルと呼ぶことになった。その思惑なんて知らないけれど。
そういえば、とシエルを見て思い浮かんだことがあった。
「何よ、その髪の色」
その言葉に知らない2人は首を傾げていたから、元々髪が朱色なの、と答えれば、シエルの髪の色をまじまじと見ているのが分かった。別に染める意味もないだろう、と言えば。困ったようにシエルが笑った。
「なんか音素が安定するまで?ってローレライは言ってたけど…。安定したら元に戻るって。いつになるかわかんねーけど。戻るまで超振動は使うなって」 「ただの目印ね」 「そう言われると…まぁいいや」
ロイドとジーニアスには分からないだろうなぁ、と思えば、案の定理解していなかった。それでいい、と思いながら、2人に振り返る。隣で、私の持っていた荷物をひょいっとシエルが横から奪っていった。それを特に何も言わずに見て、
「とりあえず、宿に戻りましょうか」
色々と言わなければいけないこともあるみたいだし、と。そう言えばロイドは首を傾げていたが、ジーニアスは納得していた。ただ、シエルだけが呆れたようにため息をついていたけれど。
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