「お待たせしました、しいなさん」

急に何処からか現れた女の人、どうやらソフィアという名前らしい。それに気付いたしいなも武器をしまっていたけれど。ロイドたちが不思議そうな表情をしていた。…少しは暗殺者を警戒する姿勢を見せた方がいいんじゃないかしら。


「やはりポルトマンの残した治癒術はマナの守護塔にあるそうですわ。……あの、こちらの方はお友達、ですか?」
「…治癒術…」

何故かか治癒術に反応して、復唱した私。どうやら私の呟きは聞えていなかったらしい。お友達、という言葉にロイドたちも気に取られていたらしい。先程の雰囲気からして、どう見てもお友達には見えないだろうに、と思うのは私だけなのかしら。


「そうです!」
「ち、違う!」
「あら、私も違うのかしら?」
「セレネは別だから!」

そういえば、真っ先に聞いて来そうなリフィルが聞いてこない、と思いながらまた視線を向ければ、興味津々になってソフィアに詰め寄るリフィルが見えて、思わずジーニアスと同時にため息をついた。恐らくお友達発言よりも、私同様に治癒術というのが気になっているんだろうな、と思いながら。人のことを言えないけれどね。


「マスターなんとかって…なんだ?」
「姉さんの癒しの術を知ってるでしょ?あれを発見した人だよ」

ロイドの質問に随分と噛み砕いて、簡単に答えたジーニアス。ふーん、と分かったのか分かってないのか返事をしていたロイドの少し後ろで、私は軽く笑っていた。

「……治癒術の創設者…気になるわね…」

なんて呟いていたら、驚いたようにロイドとジーニアスが振り向いていたけれど。どうやら笑い方が遺跡モードのリフィルに似ていた、らしい。こんな機会は他にないわ。治癒術の原理が分かるかもしれないのだから。私たちの世界では様々な原理は創世暦時代に確立されてしまっていて、その原理も文献もあまり残っていないのだから。それは興味がわいてもおかしくはない。


「お前たちには関係ない!!」

勝手に話を進めていたロイドたちを制止するようにしいなが言っていた。しいなやロイドたちの会話は殆ど耳には入ってこなかった。ぶつぶつとリフィルと同じように呟いている私に気付いたのはコレットくらいだろうけれど。


「…もしかしたら、原理さえ分かれば治癒術から攻撃への変換も可能かもしれないわね…」

当然、原理が分からなければ出来ないだろうけれど。不可能なことはないはず…多分。オールドラントに戻っても、ユリアシティにもまともな文献は残っていないだろう。興味あるなぁ、なんて呟けば。

「…セレネ、そのあたりでやめておけ」

クラトスの制止で顔を上げれば、呆れたような驚いたような表情をみんなが見えて。嫌ね、冗談よ(半分くらい)と誤魔化した。勿論、冗談って顔じゃない…としいなの顔に書いてあったが、特に突っ込まなかった。話を遮ってしまったけれど、ソフィアだけは何事もなかったかのように話を続けた。


「でもしいなさん、ポルトマンの治癒術を見つけてもそれを使える人がいなければ…」

そう言ったソフィアの視線はリフィルに向いていた。先程の会話から、恐らくと思ったのだろう。そのポルトマンの治癒術っていうのに記述されている術が私の知らない系統の術だといいな、なんてことを考えていた。ま、魔術と譜術で大した差がないとすれば、使える術の確立の方が大きいだろうけれど。

「…だったらこいつらに頼むんだね。あたしは勝手にやらせてもらうよ。とりあえずポルトマンの治癒術を持ってくりゃいいんだろ!」

なんだかしいな、ヤケになってないかしら。そう言い残してしいなはハイマの町を飛び出して行った。この時間に行ったら夜にならないかしら。彼女も考え無しよね、なんてそんなことを心配していた私。呆れたようにため息をついたところで、ソフィアとロイドが何やら話をしていた。しばらくして、ソフィアは宿へと戻って行ってしまったけれど。


「ロイド、いつからあの人と友達になったの?」
「ま、まぁいいだろ別に!」
「…こういう時だけ、頭の回転早いよねロイドって」

コレットの言葉に、何があったのかすぐ分かってしまった。あぁ、みんなしてお人好しばかりなんだから。宿へと向かって行った3人を見ながら、本来の目的を忘れているんじゃないかと思ってしまう。ふと、隣からため息が聞こえて視線を移す。困ったようにロイドたちを見据えているリフィルの姿があった。

「…あの子たち、本来の目的忘れてないかしら」
「リフィル、私も今同じことを考えていたわ」

宿の前で盛大に両手を振っているロイドを見て、駄目ねこれ。と呟きながら彼らを追った。


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