それを、どこか冷静に眺めていた。けれど、頭の中では別のことを考えている。遺跡の中は多少なりとも涼しいかと思ってみてば、まるで中もザレッホ火山のようだ。下はマグマが煮えたぎっているし、その上魔物もこんな感じ。本当、勘弁して欲しい。その文句はいつの間にか口に発していたらしい。

「全く…どいつもこいつも…暑いのは嫌って言ってるじゃない」

ゴォォ、なんて火を吹き続ける魔物を目の前にして。うつ向いている私に視線が集まった。もちろんその視線は怪訝そうな視線だけれど。うつ向いたままの私を心配そうに見ていた人もいなくはなかった。そんなことを気にせずに、私は瞬間的に取り出した音叉を握る。(リフィルの目が輝いていたのは気のせいよ多分)もちろんそれはコンタミネーション現象。知る人間はまずいないけれど。


「姉さ、ん…?」

明らかに様子がおかしいと思ったのか、遠慮気味にロイドが声をかけてきた。その声に答えるように顔を上げた。その表情は、満面の笑み。その笑みに、ロイドが言葉に詰まっているのが見えた。


音叉を一度地面に叩きつける。音素が揺れるように音が響いた。その音に気付いたのは魔術を使う人間くらいだろう。ロイドは分からなかったのか、呆然と見ているだけだ。

「断罪の剣よ」

それが譜術の詠唱だと気付いたらしいクラトスはロイドと共に後ろにへ下がった。わけも分からないようなロイドも退き、私の前が空いた。足元に浮かんだ譜陣に音叉をつく。

「七光の光をもちいて降り注げ」

譜陣が一層光を強めた。キィィンと耳鳴りしそうな程の音が響く。くるり、と手の中で一度音叉を回した。呼応するように、譜陣が一瞬だけ光を弱めた。しかし、

「プリズムソード」

次の瞬間には再び音が鳴り、強い光と共に魔物の足元に浮かんだ譜陣から光が発せられて、その魔物の体を宙から現れた光の剣が貫いてそのまま跡形もなく消滅した。


「…………な、なんだ、あれ…」

ロイドが消えた魔物に呆然としていた。クラトスが呆れたようなため息をついて剣を納めていた。すっきりした私は、笑顔で音叉を地面に叩き付けた。リフィルとジーニアスが輝かしい目で私のことを見ていることに気付いて、そっちに視線を移す。


「凄いやセレネ!!さっきの術はどうやったの?!」
「……うん、あの、禁術だからそう簡単に使えるものじゃ…。あぁ、でも二重詠唱くらいなら、」


ほいほいと禁術が使えるようになってしまっても困る。二重詠唱、という言葉に食いついてきたのはリフィルだった。言葉が途中で途切れたのは、リフィルに胸倉を掴まれたせいだ。らしくもなく、ぐえっと少し唸ってしまった。

「二重詠唱というものはどういうものだ!?」

おい、遺跡モード。と思わず呟いていた。

「い、1+1=2…みたいな…」

随分と曖昧な説明にジーニアスは首を傾げていた。リフィルは理解したのか、輝かしい目をして、胸倉を掴んでいた手をようやく離してくれた。少しだけ、咽てしまったのは確実にリフィルのせいだ。じと目で睨んでみたものの、遺跡モードのリフィルには効かないらしい。


「下級魔術に更に下級魔術を詠唱することで中級魔術並の威力が発揮するということだな!!」
「まぁ…1人でなくても2人でも使えるけれど」

簡単に言えばFOF変化のようなものだと私は理解している。術に限らず、その場にある音素を判断すれば似たような術技で属性を伴ったものを完成させられるだろう。


唯一の趣味だった譜術研究がこんなところで花を咲かせてしまったらしい。リフィルの質問に答えるうちに段々と術議論を唱え始めてしまった私たちを、呆然とロイドやコレットはともかく、クラトスまでもが見ていたことにすぐには気付かなかった。


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