「…お前たちは野放しにするべきではなかったな」
「あー手負いなんだけど、俺」
「回復したわ。思う存分やられなさい」
「違うだろ!」


シエルだけしか回復しなかったのは、ロイドたちが目覚めれば、術に巻き込まないという自身はない。だから、悪いけれどしばらく眠ってもらう。シエルが、続きしようぜ!と気が抜けるような声を上げた時だった。急にクラトスが膝を地面に付いたのが分かる。



「やはり如何なるクラトスでも、こいつらには所詮勝てぬか…」
「ようやくその重い腰を上げたな、」
「……クルシスとディザイアンを統べる者、ユグドラシル」

突如に現れた(全身タイツみたいなピチピチ服を来た)金髪(サラサラヘアー)な男。ユアンから聞いた通り、そいつがユグドラシルだろうことは分かった。茶化すような私とシエルに、奴は笑う。どことなく、あのひねくれ者な仮面のあの馬鹿を思い出した。なんとなく、似ている気がした。



「"聖なる焔"と"再来の光"か…」
「貴方に聞きたい。私をテセアラの神子の婚約者にしたのは、何故?」
「セレネ、俺それ聞いてぬぇ」
「忘れてた」
「忘れんなぁ!!」

そんなやりとりをしながら、ユグドラシルが放った魔術をかき消した。その行為に楽しそうに顔を歪めた。そんな彼に嫌気がさす。そう思っていたせいか、多分気が抜けていた。迫っていたクラトスの剣に気付かず、舌打ちをしたシエルに押された。高い金属音に顔を上げれば、その剣をシエルが受け止めていた。


「よそ見とか馬鹿じゃねーの?!」
「分かってるわよっ!」

あんな表情、シンクもよくしてたな、なんて、まだ思ってる。世界が嫌いで、それに属する者、従う者に嫌悪を抱いている。どうして、今更シンクなんか思い出してるのか。多分、似てるから、だと確信した。



「炎の聖なる刻印を刻め…フラムルージュ」


詠唱はないよりはあった方がいい。それより気になるのは、先程の異常だ。シエルに触れて急激に冷えた感じがした。彼が関係あるならば、第七音素だろう。そうなら、使わない方がいいと確信した。炎で視界を遮るだけだ。あれだけで、倒せたとは思わない。いくら何でも、相手の力量を図れないほど馬鹿ではない。

「っ…て、そう簡単には、殺らせてくれないか…っと!」

クラトスには用はない。用があるのはユグドラシルのみ、だ。譜術を遮りにして頭だけを叩くつもりだった、が。そうも簡単に行くわけでもない相手だとは重々承知で。簡単にクラトスに防がれたシエルは少し苛立っているようで。



「……来た、シエル!」
「おせーんだよ、あいつら!!」

このままロイドたちも巻き込まないで戦いを終わらせるのは、無理だ。それは始めから分かっていた。だから、時間を稼いでいただけだ。クラトスの剣を弾いたシエルが譜術を放った。ただの目眩しに過ぎない、が。

「神子は既に天使化してしまったか…殺さずに連れ帰れ!」
「ったく、遅いわよレネゲード」

シエルの譜術が遮りになった瞬間に、雪崩れ込んだレネゲードが意識のないロイドたちを抱えて、その場から離脱しようとする。ユグドラシルに知られるわけにはいかないのか、そこにいたユアンは普段の姿ではなく、レネゲードの鎧に身を纏っていた。


無言でこちらを見ていたユグドラシルが片手を掲げた。それが、魔術で私に向いていたと気付いたらしいユアンは、かばうように前に出て片手を掲げようとした。その手を、有無言わさず押さえ込んだシエルが超振動を放ち、出口へと走る。

「馬鹿かよ!正体バレるだろっ!」
「………………迂濶だった」
「今の間は何かしら、ユアン」

そんな話を小さくしながら、ひたすらに救いの塔から出るべく走る。ロイドたちは他のレネゲードたちに助けられて、もう外にいるだろう。そして私たちも救いの塔をあとにする。沢山の疑問をあの場所に残したまま、


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