声が聞こえる。ロイドの声だろうけれど、祭壇の近くに羽で身体を浮かせているコレットを見て、少し焦った。レミエルだかなんだかの天使は、高らかに笑い声を上げていた。それが、どことなくモースを思い出して、吐き気がしてきた。まだ少しある距離を埋めるために、仕方ないから超振動で…!(使いすぎとか言わないの)


「私はマーテル様の器として選ばれたこの生贄の娘にクルシスの輝石を授けただけだ」

その台詞を、レミエルは最後まで言えただろうか。全てが言い終わる前に、恐らくその身体は斜めに倒れた。その後ろで、剣を握ったまま見下ろした。

「馬鹿ばかしい。たかが一人の為にこんなことをするなんて」


そしてまた、私もたかが一人のために行動を起こすのだけれど。私の言葉にレミエルは返さなかった。絶命したのだろうか。そんな私を見て、かロイドが声をあげた。リフィルだけは怪訝そうに私を見ていたのだけれど。


「姉さん!何処に行ってたんだよっ!」
「あぁ、ごめん」

苦笑いしながら答える。それに答えながら、コレットが私を見ていたのは知っていた。何か、言いたいことがあるような視線に、問いかける。

〈…セレネ…?〉
「ねぇコレット、本当にやるの?」

私の問掛けに、一瞬驚いたように目を見開いていた。けれどそれはすぐに、小さな笑みに変わる。造り笑いではない、心から出した本当の笑顔なのだろう。


〈うん。だって、この世界が好きだから。私にしか出来ないんだよ?だから、やるよ〉


綺麗な笑顔を浮かべながら、静かに言った。そう、と小さく呟いた。ロイドは止めようとしたのだろう。けれど、ジーニアスやリフィルは止めなかったのかもしれない。今のシルヴァラントの状況からして、世界再生は行わなければいけない。


「ねぇコレット、守りたいものが、相反するものだったら、どうすればいいのかしらね」
〈……セレネ、なにを…〉

何を言いたいのか、ということだろう。ちらっとしいなを見れば、何も言わないでこちらを見ていた。(彼女は優しいから、)おあいにくさま。私はあの旅で分かったの。守りたいものが同じで思想が違ったとしても、分かり合える。けれど、守りたいものが相反するとしたら、答えは一つしかない。それは最後の選択なのだろうけれど、その答え以外を、私は知らない。



「守りたいものがあるの。だから、」
「セレネ!!待って…」


しいなの咎める声が聞こえたが、それは無視した。本来ならこれを、しいながしてくれるはずだったんだけれどな、なんて苦笑いしながら。
レミエルを斬った時についた血を振り払う。そのまま、剣先はコレットの首筋に向けられた。頭の中に混乱したようなコレットの声が響く。泣きそうな小さな声だった。泣く、ということは今、コレットは出来ないはずだ。でも、泣きそうだった。



「私の守りたいもののために、死んで?」

決めたら戻れない。戻る手だてはない。一度決めたら、後には引かない。自分の行動には、責任くらい持つ。誰かの声が聞こえた。誰の声だったか、それを理解しようとはしなかった。だって、戻れないのだから。


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