「お、お帰り。随分長かったね」
救いの塔が見える高台。山の頂上に近いせいか、風が強い。そこにいたしいなは、先程シエルが"お子様"を連れて宿に向かったところだ、と言ってきた。その様子では、まだ来るのには時間がかかりそうだ。
「ただの説教よ。全く…契約を忘れてるんじゃないでしょうね、あいつ」 「あいっかわらず不機嫌だなお前」 「お、こっちは思ったより早かったみたいだねシエル!」
少し、眉間に皺を寄せながらため息をついた。それはもちろん、あのレネゲードの頭について。あの様子では、明日辺り救いの塔に入ってくるでしょうね。まぁ諸々問題はある、か…。人が思考を巡らせている時にばかり邪魔は入るもので。本気で眼鏡に似てきたと思いながら、振り返る。じゃっかん疲れ気味なのは、"お子様"たちのせいだろうか。
「で、何説教されたんだ?」
ニヤニヤしているのは、からかいたくて仕方ないんだろう。あぁ、あの旅から変わってしまった(色々な意味で)しいなはそんな彼と私を見ながら笑いを堪えているのがよく分かる。
「なんで食べ物に毒を仕込まない、とかネチネチと。あれは姑ね。口煩い」 「あー分かるよセレネの気持ち」
がしっと手を組んだ私としいなにシエルが僅かに呆れているのが分かる。半分冗談だけれど、半分はもちろん本気。私が思うにクラトスやジェイドも似た人種だと…。
「って、そんな話じゃないだろ!」
パッと振りほどくに近い感じでしいなが手を振り払った。そんな様子でに苦笑いをしている私とシエルに、少し不機嫌になっているしいな。
「どうすんだよ!明日には本当にシルヴァラントが再生されるんだ」 「分かってるわよ。最も、明日のコレットの行動にもよるし、それに…」 「セレネの言う通りだな。ま、今言ったって始まらねーしなぁ」
熱くなるしいなに、困ったようにシエルは髪を軽くかきむしっていた。私たちの言っていることも、分かっているのかしいなはそれ以上は何も言わなかった。それは、多分、どうしていいのか分からないのだろう。コレットたちと行動している内にどうしていいのか分からなくなってきたのだろう。それ以前に私は契約があるから、迷っているわけにはいかない。
「風、強いわね」 「セレネ、戻る?」 「そうしようかしら」 「……あれ、ちょっと。しいなとセレネ。お前ら俺は無視か?」
少し、強くなってきた風に少し身震いをした。夕方近くになってきたからだろうか。そんな私を心配してくれたしいなに対し、シエルは少し不満そうにしていた。別に、無視をしていたわけではないのだけれど。
「はいはい。悪かったよシエル。全く、あんたも"お子様"に入るんじゃないのか?」 「あー…実質10歳ほど?」 「………は?」 「あぁ、悪い。なんでもねーよ。…じゃ、戻るか」
上手く誤魔化したとは思わないのだろう。しいなは、先を歩いたシエルを見てから、不思議そうに私を見てきた。苦笑いしながら、行こう。と促せばそれ以上は追求してはこなかった。
「明日、か…」
確信はない、が。ハメられないことを祈ろうか。柄にもないことを考えながら、坂道をゆっくりと歩いて下りた。
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