結局朝飯を食べてからの出頭(この言い方にはものすごく語弊があるが)になったので、手紙をもらってから少し時間が経っている。イオンの奴怒ってるだろうなーと思いつつ、教会へと足を向けた。

教会の大きな入口を目の前に、少しだけ視線をずらすと脇に見える神託の盾騎士団の詰め所への入り口が見えて、小さく息を吐く。

「…お前は」

背後から、声が聞こえた。思わず振り返りバックステップで後ろに飛び退く。警戒心を露わにして声を掛けてきた人物を見れば、俺に逃げられると思っていなかったのだろう。捕まえようとした手は宙に浮いていて、そして目を丸くして驚いていた。

「………うっわ、何の用だよ。まさかとは思うけど俺が乖離して消えたと思った?思った?残念でした、こうして生きてます〜」

口を尖らせてそう言い放つと、そいつ…髭、じゃなかった。ヴァンは眉間に皺を寄せていた。俺がそんな反抗すると思っていなかったんだろう。ざまぁみやがれ、と内心であっかんべーとしてみせた。実際にはしてないが。

「何故こんなところにいる、れ…」
「おおーっとその口塞ごうか若作り野郎め」

レプリカ、と口に出そうとしたまさにその瞬間。その場を軽く飛ぶとそのまま飛び蹴りを腹部にお見舞いしてやった。「ぐふぅっ」と情けない声を上げるとそのままよろよろとふらつく。後ろに階段があるから、無様にそのまま転げ落ちればいいのに。とも思ったが、さすがにそこまでではなかったようで。何とかその場に踏み留まっていた。

「場所ってもんを理解してんのかお前。そんなことここで言っていいことじゃねぇだろ頭弱いんじゃねーの…」
「フレイ、何してるですか?」

また背後から声が聞こえた。今度は敵意も殺意もないことを感じ取ると、ゆっくり振り返る。教会から出てきたのはアリエッタだった。その両手にぬいぐるみを抱き締めているが、俺の目の前にうずくまっているそいつを見るなり、その抱き締めていたぬいぐるみをさらに強く抱き締め…正直綿が出るんじゃないかと不安になった。

「なんですか、この人」
「誘拐されそうになった」

俺が素直にそういうと、アリエッタがとても冷めた目でヴァンを見ていた。おいおい怖いぞアリエッタ。ヴァンと敵対しているようなこの構図で、アリエッタが俺の味方なんて…なんだか凄く、違和感がある。とても嬉しい出来事だが。

「…次期主席総長、誘拐犯だったですか。アリエッタ知らなかったです。イオン様に告げ口しておく、です」

次期主席総長、という言葉が少し引っかかった。次期ってことはまだ主席総長じゃないってことか?うーん、まぁ確かに主席総長を名乗るにはまだ若い気がする。そしてヴァンに冷ややかな視線を送るアリエッタが怖い。

「フレイ、行こう」
「え?あ、うん」

アリエッタにそう促されて、思わず頷いた。その前にこの場に蹲っているヴァンをなんとかしなくていいのか、とも思ったのだがこんな教会の入り口でこのやりとりだ。巡礼者や警備に当たっている神託の盾兵からの視線が冷たい。放っておいてもいいか、ヴァンだし。

なんて少なくとも[前回]は剣の師匠だったヴァンに対して、かなり冷たい態度を取っていることに少しだけ違和感を覚えるが。残念ながらあいつに対して罪悪感とか申し訳なさとか、そういう思い出染みた感情が一切浮かんでこない。

(まぁ髭面だしなー…まだ髭じゃねぇか)

うんうん、と一人で妙な納得をすると先を行くアリエッタの後を慌てて追いかける。この広い教会で迷子になったなんて言ったら……イオンに笑われるに決まってるからだ。

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