とは言っても、この世界で目覚めて数週間。カンタビレ邸にやってきて数十日。日付で言うとND2011、レムデーカン12日だ。ぐだぐだしている間に月が変わってしまった。なんてこった。

そして俺は今、机の上でカレンダーと睨めっこをしていた。困ったことが起こった。それは生きて行く上では全く問題なく、時代の流れに身を任せてればいいだけの話なんだけど。その時代の流れに反することをしようとしている俺にとっては由々しき問題だ。


つまるところ、俺は歴史を知らないのである。


いつの歴史かって?そりゃ創世暦時代の歴史を知らなくたって何の問題もない。いや問題がないわけじゃないけど。俺が言っているのは<この先の歴史>だ。未来なんて知らなくて当然かもしれないけど、俺は未来から来た人間だ(正確には人間じゃないし、未来から来たと言っていいのかも分からないけど)

俺、つまりルークがティアとの間に超振動を起こしバチカルから飛ばされる、それ以前の歴史を知らない。例えばケセドニア北部戦と呼ばれるものがいつなのかとか、ピオニー陛下が即位するのがいつなのか、とか。

「これは大問題だろ…」

はぁ、とため息をついて机に突っ伏す。ケセドニア北部戦で亡くなったらしいリグレットの弟を助けてリグレットを引きこみ、ピオニー陛下が即位する前に恩を売って仲良くなって、とか色々計画していたんだけど…それがいつ起こるのか分からないことには、行動のしようがないわけだ。

「唯一の救いが被験者イオンと仲良くなった、ってことか…」

少なくともこれでレプリカ・イオンに関する問題はなんとかなる。被験者イオンを助けるにしても、レプリカイオンが殺される前に助けることも、……シンクのことも、アニスのことも。

「……だあああ!考えてもしかたねぇ!」

頭をぐしゃぐしゃと掻き毟って叫び声を上げる。屋敷の人間が聞けば何事かとすっ飛んで来るだろうけど、残念ながらこのカンタビレ邸には俺とレネスしかいない。部屋の掃除とかは近所のおばちゃんあたりに時給払ってやってもらってるらしい。そんなわけで誰も俺の独り言を聞く人はいない。

レネスは早くから仕事をしに神託の盾騎士団の詰め所の方へ行っている。師団長なんて地位を任されてるんだから忙しいに決まってる。

「……とりあえずこのままここにいたら、あの事件から弾き出されるに決まってる。つーか下手したらあの髭やろうまたレプリカなんて作るに決まってる」

多分、俺は乖離したと思われてるだろうし。逃げ出したときに超振動使ったけど、その時の第七音素の反応は俺が乖離したさいに発生した第七音素だと思われても…まぁ不思議じゃない。これ以上レプリカなんぞ作らせてたまるか。

「…とりあえずイオンに頼んで、神託の盾騎士団に入れてもらうかー」

はぁ、とため息と同時に零した提案。我ながらナイスアイディアだと思う。誰が聞いているわけでもないのに口から言葉が零れるのは…あれか、寂しいのか。寂しいなんてそんなわけないんだからな!

…ちょっと悲しくなってきた。


ともかく、このままカンタビレの屋敷でぐだぐだと過ごしているわけにはいかない。せめて体力をきちんとつけて、剣術を学んで…できれば譜術とかも学びたい。それで力をつけていかないと、なんて考えていた。

目的が決まれば善は急げ。部屋着だった服を乱暴に脱ぎ捨てて、レネスが買っておいてくれた服に腕を通す。黒のパンツに白いシャツにコートを羽織る。コートの袖がぶかぶかなのは…ちょうどいいサイズがなかっただけだ。うん。

「……武器、買いたいなぁ」

そう零してみたものの、あのレネスが簡単に買い与えてくれるとも思わなくて。思わずまたため息を零した。

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