歩く速度は自分で決めて


「起きろ!!」

そんな大声に眠っていた意識は一気に覚醒する。直後に何が起こるかなんて予想は出来ていて、寝起きにも関わらずに急いでベッドから転がり落ちる。降りるというよりも落ちたという方が的確なので、この場合ベッドから転がり落ちるで正解だ。意図的に転がり落ちた。


で、さっきまで俺が寝ていた場所にフライパンが振り下ろされたのを見て思わず青ざめた。あれを食らった日には…ファーストエイドくらいじゃ済まないだろう。ていうか俺、譜術とか一切使えないし。

「ちょ、何するんだよ!死ぬだろ!」

慌てて起き上がって俺の寝ていたベッドにフライパンを振り下ろした人物を見る。黒みかがかった髪に片方の目には眼帯をしていたその人は、フライパンを片手ににっこりと微笑んでいた。

「おはよう、フレイ。さっさと起きろ」
「…もう少し穏便な起こし方してくれ…」
「自分で起きる方法を身につけるんだな」

ようするにフライパンで乱暴な起こし方をされたくなければ、自力で起きろと。欠伸を噛み殺して窓の外を見れば、随分と寝ていたらしくて日は完全に登り切っていた。

「ほら、ご飯食べに来な」
「はぁ〜い」

間延びした返事をすれば、目を細めて睨まれた。眠そうに目を擦った俺を見ると呆れたようにため息を吐かれて…、その人は先に俺の部屋から出て行った。恐らく朝食の支度をしに行ったんだろう。


イオンの紹介で俺の世話をしてくれる人、レネス・カンタビレ。

名前はどこかで聞いたことあったんだけど、[記憶]をたどってもあんまり印象にない。イオンから聞いた話では、導師派で第六師団の師団長。ヴァンとモースとはあまり(というかかなり)仲が良くないらしい。導師派だし、イオンが一目置いてるし、ということと。

あとそれからレネスは神託の盾騎士団の宿舎ではなくてダアトの少し街外れにある家に住んでいるからっていうのが一番大きいらしくて。確かに宿舎だと色々まずい。(ちなみにお金持ちなのか、この家は屋敷って呼んでもいいくらいには大きい。ファブレ邸には当然劣るけど)


そんなわけで、[二回目の人生]はまさかのカンタビレさんと義姉弟という関係で始まったわけだ。

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