不意打ちカウンター


そんなわけで、俺ことルーク・フォン・ファブレのレプリカはダアトへ連れて来られた。


そして、薄暗い部屋に幽閉されること、3日。3日目にして飽きてきた。つまらない。この3日間、ヴァンもディストも部屋は訪れない。レプリカなんかに構っている時間などないということか。そういうことか。研究員たちらしき人たちが3食しっかり運んで来てくれることだけが幸いだ。ご飯も普通のご飯だし。

「そろそろ飽きてきたな〜。色々やるための基盤作りてーんだけど」

それもヴァンが被験者をダアトへ連れてくることが本格的に不可能だと、そう確証が得られなければ俺を使うことなんてないだろう。このまま乖離しても問題ないと思っているのか。迎えにこないってことはそういうことだろう。

まぁ簡単に手駒になんかなってやらないけど。

「とりあえず抜けだすか〜」

るんるんと鼻歌まじりの歌を歌いながら、立ち上がる。手足は拘束されていないし…、拘束されていたとしても、超振動でなんとかなるが。10歳の体だから身長は低いし、手足も短い。武器も持ってないから、見つかったら最後だなと思わず呟いた。

「…あれ、そういやローレライの鍵ってどこ行ったんだろう…」

過去に戻ったなら、まだあれはローレライの元か。どちらにせよ、手元にはないんだから後々手に入れるしかない。ローレライとの接触の仕方も分からないわけだし。

武器をどこで手に入れるかが問題だな〜、と先のことを考えながら、幽閉されていた部屋の扉に耳をあてる。音は特に聞こえない。レプリカの子どもが抜け出せるわけがない、と見張りを立てていないのか、それとも扉の壁が厚くて音が聞こえないだけか。でも人の気配もしないことから前者だろう。

「ま、さくっと超振動で開けますか」

技で壊して開けてもいいんだけど、それで神託の盾兵が来たら厄介だ。頑丈に鍵をかけられているようで、その鍵の部分に向けて超振動を放つと跡形もなく南京錠が消えた。よしよし、超振動の調子は絶好調だな。



部屋の外に出てみてから気付いた。ここは神託の盾騎士団の本部じゃない。教会の方だ。神託の盾兵の姿は見えなくて、教団関係者の姿がちらほら見える。ローレライ教団には奉仕に出てる小さな孤児とかもいるから、俺がうろうろしていても別段おかしくはないようで。視線は向けられるものの、捕まることはなかった。

「どっこ行こうかな〜」

どうせそのうち、見つかって連れ戻されるのがオチだ。飯の時間になっていないことに気付いて、血眼になって探すだろうし。


ふらふら歩いていたら、結構奥の方まで歩いて来ていたらしい。教団関係者も神託の盾兵も姿が見えず、人の気配がしない。

これは見つかったらやばいかな、と感じて踵を返そうと思った瞬間だった。来た道を曲がろうとした途端、走って通路の角を曲がろうとしていた人物とぶつかった。

「うおっ、」
「うわ!?」

同時に声を上げて、走ってきた人物が尻もちをついて転ぶ。ヤバい、見つかった。

「いったいなぁ、邪魔なんだけど」
「………お前、」

ぶつけた部分を擦りながら、そう悪態をつく人物をじっと見つめた。見覚えのある、白い服。ローレライ教団の最高位の服装だ。俺が驚いたような声を上げたのが分かったんだろう。その人は睨むようにして俺を見上げて来て…、目が合った瞬間、驚いたように目を見開いた。

「……誰?」

それは紛れもなく俺に向かって発せられた声で。警戒心とは違う感情がそこに伴っているのが分かった。

「…キムラスカ王族がうちに来るなんて話、上がってなかったけど」

そう言われて、なんでその人が驚いているのかようやく理解できた。そういえば、髪とか目とか、そのままでうろうろしていたんだった。赤い髪に、翡翠の瞳。誰でも知っているだろう、キムラスカ王族の持つ色だと。

「あ、えーっと、俺は…」

見知った人の、聞き慣れない冷たい声に戸惑って。さらに名前を告げるにも戸惑った。だって俺がここに居る時点で、俺はルークじゃない。それにアッシュと名乗るのも嫌だったし、ヴァンやディストに名前をつけられたわけでもない。戸惑ってなかなか名前を口にしない俺に、そいつは眉を顰めた。

「…あっ、やば、逃げてたんだった。こっち!」

不意に、聞こえてきた遠くからの足音にそいつが弾かれたように声を上げる。俺が何かを問いかけるまでもなく、俺の腕を引っ張ってそいつは走り出した。



これが俺の人生を大きく狂わす、被験者イオンとの出会いである。

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