再び目を醒ます時


ゆらゆらと揺り籠にでも入れられ、揺られているような心地よさを感じる。第七音素の瞬きが瞼を閉じていても感じられ、う〜んと間抜けな声を上げながら目を擦り、寝返りを打つ。やめてくれ俺はまだ眠いんだ。

眠い?

そこで急に意識が浮上した。まてまて、おかしいことが幾つかある。まずちょっと確認しよう。俺は確かエルドラントでヴァンを打ち倒したあと、ローレライを解放したはずだ。そして当然のことながら乖離し始めていた体は音素に戻ったはず。ただの音素が眠いとか欲求を感じるのか。まぁ…思考能力があるかどうかという点については、ローレライみたいに音素の集合体になっている可能性もあるので別にあってもおかしくないだろう。


いや、ちょっと待て。それだけじゃない。意識がはっきりしたことで気付いたことがいくつかある。まずなんだか地面が硬い気がする。ひんやりとした、冷たい空気が肌に感じる。そして、瞼の裏が明るい。


恐る恐る、目を開けた。見覚えのない…といったら語弊があるが。まぁ見覚えのない天井が目に映った。

「…なんだこれ」

普通に声も出る。いや、ローレライのような音素の意識集合体も喋っていたから、声が出てもおかしくはないだろう。自分はもう音素なんだ、音素なんだと言い聞かせてみたものの、なんだか体が重い。

……体が重いという認識があるということは、実体があるということで。

顔を左に向けてみれば、手ががっちりと地面に拘束されていた。地面というには多少語弊があるが。なんで俺がこんなところで拘束されなきゃいけないんだ。


小さくため息をついたあと、意識を両手に集中させる。パキン、と鉄が割れる音が聞こえた。左手を見ると拘束具は跡形もなく砕け散っていた。うん、超振動が使える。これはなんだか本格的におかしいぞ。

「よっこらせ」

重い体に鞭打って起き起き上る。その場に座りながら、少し考えた。エルドラントでヴァンを打ち倒した後、どうなったんだ?いや、正確にはローレライを解放したあとどうなったんだ。もしかして、奇跡的に帰って来れた?

最後の記憶を手繰り寄せてみれば、ヴァンを打ち倒し仲間を見送ったあと、エルドラントの地にローレライの鍵を…


「ん…」

自分以外の声が不意に耳に入ってきて、我に返る。そう言えば周りの状況を確認していなかった、とあたりを見回して、驚いた。いや、驚いたなんてもんじゃない。今世紀最大のビックリだ。それは自分がレプリカであった、と聞かされたときの驚愕以上に。

「……………………うそおおおおおおお!」

自分の右隣に寝ていた人物に覚えがあった。魘されていたようで眉間に皺を寄せている。自分の知っている彼よりもいくらか…いや、かなり若い気がする。


誰かって?そりゃ言わなくても分かるだろう。俺の被験者のアッシュだ。アッシュが俺の隣で眉間に皺を寄せて眠っていた。


そして、俺は驚きのあまりに、とりあえず一緒に寝ていたという事実を抹消しようと思って両手をかざす。急速に集まってくる第七音素がアッシュに向かって放出された。何をしたかって、そりゃもちろん超振動でアッシュを別の場所に飛ばしたわけだ。

「ふう、証拠隠滅したぜ」

清々しい笑顔で隣に誰もいなくなったのを確認し、汗も出ていないのに手で額を拭う仕草を見せた。

「それにしてもなんだってアッシュが俺の隣で…」

あれ、よく考えたらアッシュってエルドラントで死んだはずじゃなかったっけ。そのおかげで俺は第二超振動という力を一時的に発揮出来たわけだ。……もしかして、俺とアッシュって同時にこの世界に戻ってこれた?そんな奇跡的なことが起こるかどうかは分からないけど、そんな考えが一瞬頭をよぎった。

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