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デオ峠でリグレットは退けた。合図は、“イオン”が放つダアト式譜術だった。アリエッタからの連絡を受けて、それを実行した“イオン”を一瞥してから、リグレットは姿を消した。大方近くにいるであろうフローリアンやアリエッタと合流しに行ったのだろうが。
「…ふぅん。だいぶ酷いんだね」 「随分、呑気じゃないか」 「終わってるんでしょ。フレイの部下ばかりだ」
自分も一応特務師団だから、と笑った“イオン”に“リン”は呆れたようにため息をついた。慌ただしく動いている親善大使一行を一瞥して、疲れたように“イオン”はため息をついた。アニスはいない。状況を見に行ってもらっているからだ。そして親善大使一行と距離があるため、話は聞かれないだろう。
「救助隊にしては人数が少ないね。結局預言に踊らされたか、キムラスカも。…堕ちるところまで落ちたな」 「やめてくんない?あんたが言うとシャレにならない」 「本当だろ?…で、キムラスカの先遣隊は」
“イオン”が“リン”を見て、訪ねた。その質問に、軽く首を振った“リン”は呆れたようにため息をついて、報告を始めた。肩をすくめたその様子に“イオン”も悟ったらしい。
「駄目駄目!みんなやられてる。思ったよりも神託の盾の到着が早かったみたいだ」 「…そう。あとはこっちのタイミングか。アッシュが間に合わなければ意味ないし…」
大体の準備は整っている。それこそ、あとは“イオン”のタイミングだけなのだ。アッシュ、という言葉を聞いて、“リン”が思い出したように声を上げた。
「問題ないと思う。フレスベルグが飛んで行くの見たからね。大丈夫でしょ」 「なら行くよ。さっさと終わらせる、こんな茶番」
すたすたと歩き出した“イオン”に“リン”はため息をついた。護衛を何だと思っているんだ、という意味のため息だったが。これではきっと“イオン”が導師だった頃もこんなんだったに違いない。ちょっとだけアリエッタに同情しながらも、その“イオン”の姿を追った。
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「あら…?ルーク、イオンの姿が見えませんけれどどこかで休んでいるのですか?」 「何…?!」
ナタリアが治癒術を止めて、立ち上がった時。見渡した辺りに、見慣れてしまった緑の髪が見当たらずに、思わずルークも立ち上がった。顔色が変わったルークに、ナタリアも何事かに気付いたのだろう。
「ヴァンに連れて行かれたか?」 「その可能性もありますわね。もしかしたら暗示が掛けられていたのかもしれませんわ!」
大声を上げたナタリアを窘めるようにルークが名前を呼ぶ、その時。1人の住民がルークとナタリアに話しかけた。その戸惑うような声に気付いた2人は振り返る。恐らく、ルークと同い年ほどの少年がそこには立っていた。
「導師のお姿なら、お見かけしましたが…。坑道の奥へ行かれたようですよ」 「ナタリア、急ぐぞ!!」
その言葉を聞いたルークは、お礼も言わずに坑道の方へと翻して行った。その様子を見たナタリアは、追いかけようとして、一歩立ち止り振り返る。
「ありがとうございますわ。貴方も早く避難なさい!」
命令のような口調に、はい、と少年は頷いて、ナタリアの背中を見送った。ルークがジェイドと話しているのを見て、ナタリアもそこへ参戦していった。その背中が、坑道の奥へと入っていたのを確認して、少年は小さくため息をついた。
「避難ねぇ…。言われなくてもするって。いつまでもこんなところにいられないからなぁ。…特務師団撤収ぅぅ!死にたくない奴は走って逃げるぞー」
ため息のすぐ後に、叫ぶように声を張り上げた。その声にわらわらと偽装の為に残っていた特務師団の団員が集まり始める。
「導師が奥へ行ったら、あいつらも奥へと誘いだすってね。任務にしちゃ楽すぎたか?」
それまでの救助が大変だったんだけど、そう呟きながらその少年は軽快にブーツで地面を叩いた。障気まみれのところにいつまでもいたくない。崩落に巻き込まれる前に、退避する。一気にアクゼリュスから離れようと走る仲間のあとを、急いで追った。
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