「そういうこと。無茶と無謀は違うからな。これでも慎重にやってるんだよ」
「心配かけるフレイもフレイだがな」

ほら、導師が落ち込んでいる。ラルゴに言われ、そこまで落ち込むとは思わなかった、と苦笑いしながらイオンに謝罪を入れて、頭を撫でる。そんなことでほだされるとは思ってないんだけど。少しだけそっぽを向いたイオンに軽く笑って、再び制御盤に向き直る。


「さて、問題はパッセージリングの起動方法なんだけど…。鍵は一つしかないからな。かといって、認識コードにローレライの音素振動数を書くのは危険かな」
「解除コードでも組み込んでしまえばいいんじゃないのか?」
「おお!ラルゴ、ナイスアイディア!それいいな!」

何も起動する対象が人じゃなくてもこの際いいだろう。解除コードを解けた人が障気を取り込むことになるだろうけど。ま、俺がつけた解除コードだから俺しか解けないだろうし、髭にも操作出来ないといいしな。うん、そうしよう。


そうと決まれば、問題は解除コードだ。何にするかなぁ…。あんまり単純なのだと、ジェイドたちに分かってしまう可能性はある。とすれば、[前]との関連は伏せた方がいいか。なんかいいのないかなぁ…。

「あ、そうだ」

前々から俺が思っていたことがある。せっかくだから、面白い機能でもつけておくか。解除コードと、それに失敗した時のヒントらしきものが表示されるように設定する。出来るか、と少し不安になったが、思った通り動いてくれた。

「認識コード、ローレライ。大丈夫ですかね、これ」
「俺のコードが?大方鍵のせいだろ。ま、問題ないさ。……ん?エラーが出てる。…ND2018、第三セフィロト侵入者あり…?」
「…シュレーの丘ではないか?今のところ、あそこしかダアト式封咒は解除されていない」

ラルゴの答えに、納得した。おそらくすでに髭の野郎がシュレーの丘だけを操作していたんだろう。アクゼリュスが落ちてしばらく、セントビナー周辺も落ちるように。こんなに行動が早かったのか、と少しだけ舌打ちをした。


「シュレーの丘はあとで行くとして、今はアクゼリュスか。えーっと、<固有振動数3.14159265を感知後に第五パッセージリング全機能停止>…っと。これでいいか」
「どういう意味ですか、それ」
「ルークがアクゼリュスのセフィロトに近付くと自然とパッセージリングが機能停止して、無事崩落」
「大丈夫なのか、そんなことをして」
「タイミングは問題ないと思う。あいつらが着く頃には救助も終わってるだろうし」

これでよし、と最後に書き込みを終えて、確認をしてから制御盤を閉じた。ようやくひと山終えたところで、息をつく。疲れたなぁ。久々に仕事したかもしれない。ぐるり、と最近剣を握っていない左肩を回した。その様子を見て、イオンがお疲れ様でした、と声を掛けてきた。本当だ、と軽く返して。


「さて、戻るか」
「アクゼリュスへ行く気か?リンたちに怒られるぞ」
「…バレてらぁ。大人しくダアトへ帰りまーす」

心配だった、と言えば本当だ。様子を見に行きたいが、イオンが腕にしがみついている。ラルゴの発言を聞いて、だろう。もっと信頼してやれ、と言われたので、そうはしたいんだけど、と呟いて返す。心配性なのは、分かってる。それでも。あそこはトラウマ以外の何物でもなかったから。今度は、違う、と言いたい。失敗は、許されない。


「大丈夫ですよ、みんな優秀ですから。フレイの部下は」
「嫌な言い方だな。ダアトはともかくアスランは違うだろ」
「扱使ってる時点で私兵同然ですよ!」
「こら」

イオンに軽くでこピンをする。痛い、と言いながら額を押さえているイオンを見て、小さく笑った。しょうがない。みんな頑張ってる。俺があそこに行けば、全て駄目になる可能性だってある。俺がまだ髭に洗脳されている可能性も捨てきれない以上、迂闊に近付くのは得策じゃないだろう。


戻るか、と言えば、嬉しそうにイオンは歩き出した。それを追いかける形で俺、ラルゴと続いて歩く。ようやく、始まったような気がするな。小さく笑っていたところに、イオンが振り返って立ち止る。

「どうかしたのか?」
「…いえ、フレイ。あの、解除コード、何にしたんですか?」
「俺も気になっていたな。どうしたんだ?」

前と後ろ、イオンとラルゴから同じ質問が飛んできた。はは、と軽く笑って、イオンの頭に手を乗せる。そして、そのまままた歩き出す。呆気にとられる2人に、後ろ向きに手を振って。数歩歩いたところで、立ち止り、顔だけ振り返る。


「預言を覆すために、必要な劇薬はなんでしょう」

その質問、分かるのは、多分、俺だけ。


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