すたすたとどんどんと下へと降りて行く。不機嫌顔のイオンと、苦笑いのラルゴが後ろからついてくるのが分かった。ザオ遺跡のパッセージリングはダアト式封呪を解いてからあとも、長い。最後の坂を降り切って、一つの洞窟のような場所へと足を進めた。その先に、

「あった」

パッセージリングが見えた。記憶粒子が噴出している姿が目に映る。俺を擦り抜けて走っていったイオンの姿を見て、苦笑いをしてラルゴと共に歩き出す。既にパッセージリングの操作盤の前に立っているイオンの少し後ろで、足を止めた。瞬間、イオンが振り返る。


「アルバート式封咒が解除されてません」
「だろうな。アクゼリュス崩落と同時に解除されていたと総長も言っていたが」

[前]に髭が言っていたことだろう。ラルゴの言葉に同意するように頷いた。それは俺にも分かっていた。それでも、とイオンは確認で俺に言ったのだろう。それも、確認して。

「アルバート式封咒は第一から第八までのセフィロトの一括操作を禁止する為の封咒だ。だから、此処だけを操作するのには何ら関係ない。とは言っても、書き込みしたいからいっそ解呪しちまおうか」
「どうやってだ?そんなことが出来るの、か…」
「おう。これ、でな」


ラルゴの言葉が途中で止まった。俺が、ローレライの鍵を握っていたからだろう。ローレライの鍵はユリアとローレライとの契約の証の一つでもある。それは、大譜歌がそうだという説もある。しかし、大譜歌はユリアがローレライを召喚する際に用いたもの。そして、そのローレライがユリアに与えたものが、ローレライの鍵だ。だから、どちらも契約の証と言っても間違いではないだろう。

そして、第七音素で構成されているローレライの剣と宝玉。それを鍵として一つにし、手に持ってイオンの前にある制御盤の前に立った。制御盤には確かにアルバート式封咒の譜陣が描かれているのが見える。


「譜陣があるということは、音素を使って封じてるってことだろ?つまり、第二超振動で消しちゃえばいいんだってこと」

ふぁん、と軽い音がした。小さな第二超振動の白色にも似た光に包まれた直後、綺麗さっぱり封咒は解けていた。ディストの言った通りだったなぁ、と呟きながら、消えた封咒に少しだけ安心した。これで出来なかったらどうしようかと思っていたところだ。

「…フレイだけは敵に回したくないな」
「同感ですラルゴ」
「俺はリンを敵に回したくないけどな」

僅かに視線だけ振り返って、そうため息をつくように呟いた。腹黒なリンを味方に引き込めたのはよかったけど、もしも髭側に回っていたら、と考えるだけで恐ろしい。そもそも俺がこんなこと出来るのも[前]ということがあるからなんだけどな。


視線を再び戻して、制御盤へと手を伸ばす。あと少しで触れるタイミングで、イオンに腕を引っ張られた。あまりに強い力で、そのまま振り向かされたけど。

「フレイ!第二超振動でユリア式封咒も解除したんでしょうけど、障気が入り込んだら、危ないじゃないですか!」
「あぁ、それか。大丈夫だと思うぞ」
「…はい?」


眉を顰めていたラルゴも、イオンも呆気にとられたような表情を浮かべた。それを見ながら、ローレライの鍵を制御盤へと近付けた。こつん、という音と同時に、ローレライの鍵が少し高めの音を鳴らした。ほんの、一瞬だったけれど。

「ユリア式封咒ってさ、ユリアの血筋かそれ相応のものしか反応しないんだって」
「相応のもの?創世暦時代の遺産か?」
「それもあるけど、ほら。ユリアの遺物。ローレライの鍵もその一つだろ?」

ユリアが、ローレライから授かったもの。ユリアはこれを地核に沈めてしまったけれど。ユリアの子孫がいれば、遺物の一つでも身につけていておかしくないだろう。子孫自身でなくても、遺物でも反応するように作られてる。


「そんで、音素同士は惹かれ合う性質があるだろ?鍵が汚染された第七音素、まぁ障気だな。それを受け取っちゃうわけなんだけど、鍵自体も構成は第七音素だから。第七音素同士の干渉は超振動になって、綺麗さっぱり障気は消えて一件落着」
「って、ディストの解析結果ですか」

心配して損した、というようなイオンに、軽く笑った。いくら俺でも障気に汚染された第七音素を受け取るのは勘弁して欲しいからな。一応色々とディストには無理をして調べてもらったんだけど。

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