開いたパンドラ


「……違和感あるな」
「そうだなぁ…。超違和感」

ラルゴとそんなことをぼやきながら、目の前に見える緑二つに違和感を覚えていた。フローリアンとイオンがいるけど、前者はイオンだし後者はリンだ。とにかく、違和感を覚えるのはイオンの姿をしたリンの方へ違和感を覚えるんだけど。

薄暗い、ザオ遺跡の奥底。セフィロトを目指しながら、歩いていた。いつ此処にルークたちが着くか分からない以上、早めにダアト式封呪を解いておきたい。ケセドニアで整備と連絡に結構時間を使ったからな、とため息を一つ零した。


「失礼な人たちだね。言うけど、二年前まで僕はこの姿だったんだけど?」
「リンが導師の頃は俺よりもフレイの方が詳しいだろう」
「いや。イオンとリンでの性格の激しさが尋常じゃないというかなんというか…」

ぱっとラルゴの視線が俺に映ったことに、少しだけ居心地を悪く感じながら、思わず呟いていた。性格破綻で言えばリンの方が酷い。[前]と比べるとイオンもだいぶ性格破綻してるけど。そう呟けば、確かにな、とラルゴから返ってきた。どうしようもないよ、マジで。


「僕だって頑張ってますよ!僕が劣化してるのは体力ですけど、そんなもの鍛えれば何の問題もないですから。実際に豚と髭に、なんで鍛えるのかって聞かれたので、“被験者って強かったんですよね”って言ったらなんとも言えない顔してましたけど」

言ったのか。言ったんだね。そういう顔で俺とリンがイオンを見た。ラルゴも呆れたようにリンを見ていたけど、実際に色々やらかしたのはリンだけじゃなくて、俺もそのうちに入ってる。「一体何をしてたんですか?」とリンにイオンの視線が向いた。


「…何って、詠師会の時に豚の座る椅子ごとダアト式譜術でふっ飛ばしたり」
「教会半壊させたり、食堂に導師が現れたり、士官学校のバルコニーごとふっ飛ばしたり。その肩棒、殆ど継がされたのが俺。そんなわけで豚も俺に頭が上がらない。何故なら俺が唯一の導師のストッパーだったから」
「欠く言うストッパーも途中から暴走してたけどね」


何がフォローなのか分かんなくなっただけだ。リンを睨めば、笑い声が返ってきた。何をやらかした、っていうレベルじゃないのも分かってる。暗殺者を片っ端から笑いながら1人で全て撃退する導師に守護役は要らないと思う。その時ばかりは俺も豚も髭も意見が一致したりしたんだけど。結構昔の話だな。

「いいんですか、それっていいんですか!?」
「ダアトは導師中心に回ってるからね」
「いや、最近はフレイを中心にだな」
「ラールゴぉぉお!?お前までそういうこと言うのやめてくれる!?マジで、本当にこいつら俺のこと過労死させるつもりだから!乖離の方がましだ!」

睡眠時間を返してくれ。特に緑っ子。いや、主にアリエッタも含めた緑っ子なんだけど。冗談じゃぬぇ…とぼやいて肩を落とす俺を、ラルゴが同情気味に見つめてきた。居心地悪いことこの上ない。



とぼとぼと呆れながら歩いていると、ぴた、とリンとイオンが止まる。それにつられて足を止める。…あれ?ていうかリンとイオンが先頭歩いてるってどういうんだろう。いいけど。

「着きましたよ、フレイ」

イオンの声に顔を上げて、目の前を見る。そこには間違いなく、見慣れたダアト式封呪で封じられている扉が見える。リンとイオンを追い越して、そこに近付く。こつ、とブーツが止まった。少し後ろでイオンは止まっている。隣にいるのは、導師姿のリンだ。


ようやく此処まで来た。此処まで、七年間。長かったというには、あまりにも激動すぎた。最も振り返ってる暇はない。なんせ、これからが本番だ。伏線を一つ一つ回収していかなくちゃいけない。これから、恐らく、[戻って]来るであろう人を予測しながら。


「どうする?開けようか」
「…試してみるか?第二超振動」
「いいよ。やるから」

ぐい、と押しのけられたことに苦笑いして、大人しくそこはリンに譲った。ファン、と扉の模様が動く。一つ一つ、それが動いていく。扉の模様が、一つの絵になったとき。扉は砕けるようにしてなくなった。ダアト式封呪が解除されたのを見て、リンが一つため息をついた。



「さて、これからだね」

後ろにいる、イオンやラルゴには聞こえないような声だった。その声に、驚いてリンを見れば、何やら楽しそうに笑っていた。その笑顔、見覚えがあって、少しだけ溜息をついた。

「お前、タチ悪いぞ」
「そんなの、昔から」

俺が全てを話した時。面白そうだね、協力してあげるよ。そう言って、楽しそうに笑っていたリンを思い出して、一つため息をつきながら苦笑いをした。要は、自分が楽しければいいんだという。


「楽しみにしてるからね、フレイ」

僕にどんな未来を見せてくれるのか。

「…いいよ、見せてやる」

にやり、と笑ったリンに同じようにして笑って返す。それはきっと俺らにしか分からないだろうサインで、大抵。悪だくみをするときは、こんな感じだ。


そうして幕は開かれた。

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