バチカルの最下層にある宿屋。そこの奥から二番目が、待ち合わせ場所だった。若干の疲労を残したまま、迷わずその扉に手を掛ける。部屋には既に、シンクがいた。かなり待ったのか(それもそうだ。待ち合わせ時間はかなり前だからな)不機嫌を全く隠さずに、左肘をテーブルについたままの状態で、俺に一言。


「遅い」

紅茶を飲みながら言うな。っと心の中で。外套をベッドに投げ捨てながら、シンクの目の前のイスを引き、腰を下ろす。なんだかんだで俺の分の紅茶…は冷めたけど。


「悪い、ちょっとな…」
「随分遅かったよね。なんかあったわけ?疲れた顔してるけど」
「ファブレ公爵夫人に捕まってた」

隠すことでもないし、と思い、そのまま話せば、飲んでいた紅茶が気管に入ったらしい。咳込んではいるが、ギリギリ吹き出すのを我慢したらしい。…ああ、俺なら吹き出すな。

「ど、どういうこと!?」
「港で捕まって。七年も俺を探してたらしい」
「……時間的にはフレイと同じだね」


てっきり死んだ人間基準に、要らない優しさでローレライが[アッシュ]たちも、と思っていたが、ゴールドバーグやら父上やら母上やら。あの様子じゃ陛下も、だ。見境ないな、ローレライのやつ。俺の代わりに、シンクが呆れたため息を零していた。うん、わかる。


「城に一緒に来いって言われたもんだから、昇降機使わずに飛び降りてきた。危なかった…色々な意味で」

昇降機使わずに、最上層から飛び降りたのも、城に連れて行かれそうになったのも。俺にしてみたら、後者の方が危なかったが。まぁ飛び降りたって行っても上層までだし。うん、C・コアなきゃ危なかったけど。どのみち危ない。

「あいつ、見境ないね。僕らの身にもなれって話。大体、いつになったら出て来るのさ」
「さぁ…?解放してみるか?ローレライの鍵あるし、大譜歌も歌えるけど」
「冗談やめてよね」

まぁ会いたくもないが。多分、会った瞬間殴るだろうな、確実に。いや確実に。ため息まじりに呟いたシンクには、苦笑いで返したが。心配性緑っ子め。そう簡単に乖離しないっての。

それにしても、いくらなんでも七年間もの間、連絡が全くないってはどういうことだ、ローレライ。せめて何か接触計れよ。その接触すら全くないんですけど。あれ?もしかしたら、俺って完全同位体じゃない?そんな馬鹿な。冗談だけど。



「そういえば、どうやって連れてくるわけ?イオンのこと。漆黒の翼ならグランコクマだけど」

あー、と呟きを零した。ノワールたちにはアスランとの連絡網になってもらってるからな…。今頃はグランコクマでちょうど仕事を終えたところだろう。今から呼び戻すのは無理だ。呆れたようなシンクに、軽く笑いながら冷めた紅茶に口をつける。

「勝手に抜け出してくるって。リンも一緒に降りてくるはずだから、騎士には怪しまれないはずだ。悪いけど、途中で迎えに行ってやって」
「僕が?フレイが行けばいいじゃん」
「無理無理!俺じゃあ目立ちすぎるんだよ」

最初からそのつもりだったのか、とシンクに呆れられた。…いや、だってほら。俺、さっき白光騎士団に上層部まで連行?てか連れていかれてるから。あのせいで結構街中で目を引いてたんだよ。

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