託された遺志と捨て置いたもの


結局イオンに無理矢理連行されつつも、親善大使一行とバチカルへ向かう羽目になってしまっていた。本当にマジでこれ以上巻き込まないで欲しい。シンクと合流出来なくなってしまうじゃんか。

ケセドニアではシンクの襲撃もディストの襲撃もなかった。当然だ。シンクはさっさと先にバチカルへと入っているはずだし、ディストの方は“あれ”の最終調整の為にタルタロスで黙々と研究に勤しんでいるはずだから。


ルークの出迎えか、ずらりと並んでいるキムラスカ兵の姿を見て、小さくため息をついた。…これだからバチカルには来たくなかったんだ、と小さく呟けば、隣にいたアニスには聞えたのか不思議そうに俺を一瞬見上げてきた。しかし、すぐに各面自己紹介が始まってしまい、それ以上アニスは俺を見てはこなかったが。

視界の隅に映る空に高く聳えるバチカルの街並みに、また小さくため息をついた。本当、なんで俺、シンクとの合流場所を此処にしちゃったんだろう。本当に来たくなかったんだよ。ピオニー陛下に三日間捕まるのと此処に来るのだったら、まじで前者の方がよかった。


その理由。嫌な予感がするから。

「フレイ、」
「え?ああ、申し訳ありません」

イオンから名前を呼ばれ、はっとして辺りを見ると、俺以外の人間の自己紹介が終わっていたらしい。和平使者一行のメンバーではないものの、こうして此処にいる以上は自己紹介しなきゃいけないだろう。…ていうかセシル将軍は一回会ってんだよ。ケセドニア北部戦で。今はその話題、出てこなかったけど。


「神託の盾騎士団特務師団師団長、フレイ・ルーティスと申します」
「足りないですよフレイ、参謀総長と響将が」
「……イオン様、それは」

此処で言わなくてもいいことでしょう、と小さく言えば、にっこりと笑った返事が返ってきた。いくら実績(ケセドニア北部戦)と実力(ケセドニア北部戦)と後ろ立て(導師)があったとしても、たかが17の子供が響将なんて、最高指揮官の将クラスにいるのはおかしいだろう。そういう意味合いだったんだけど。


「ご無沙汰しておりますね。響将になられたのですか」

にっこりと笑ったセシル将軍に、思わず顔を向けた。そういえば、ケセドニア北部戦以来だったような気がする。…その前まではイオンの付き人で何度か此処へ来て会っていたけれど。二年前、緑っ子誕生以降はいろんな意味でバタバタもしていたからなぁ、と現実逃避。

「あの時は大変お世話になりました」
「いえ、こちらの方こそ」


おいこらジェイドとルーク。お前ら、俺がそんなに敬語使ってるのが珍しいのか。…ま、普段からイオンって普通に導師を呼び捨てにしたりしてる分には驚くか。と思わずそう呟いた。ティアの乾いたような小さい笑いが聞えたような気がするが。

俺との会話もそこそこに、再びルークに向き直るセシル将軍に少し、安心していた。アスランの前科(逆行)があるから、ひょっとしたら、なんて思ってた自分がちょっと嫌だ。まさか、セシル将軍まで[戻って]るなんてことはないだろう。これ以上いたら困る。


ルークが自ら案内する、ということで丸く収まったのか、僅かな兵が引き挙げて行くのが見えた。それでも、残りの半数はルークを護衛するかのように動き出す。今のうちに宿に行ってシンクと合流するか、と思い立った俺も足を動かし始めた、が。世の中、そうはうまくいかないというわけで。

「…あの、セシル将軍…?お、(俺じゃねぇ…)私に何が、ご入り用でも…?」
「いえ。よろしければ是非に戦術についてのお話をお聞きしたいと思っておりまして」
「……私も、任務と言うものがあるのですが…」

それより、ファブレ公爵に報告に行かなくていいのか、と思わず視線を泳がせた。
俺の服を掴んでいたのは、他でもない。セシル将軍だった。思わずつんのめりそうになったが、出そうになった素を押さえて、敬語で返す。よく踏ん張ったよ、俺…!そんな俺の心情などほぼ丸無視で、セシル将軍は少し後ろにいたゴールドバーグ将軍へと顔を向ける。


「ルーティス響将、折り入ってお話があるのですが…」
「ちょっと待て、嫌な予感しかしないんだが。一ついいかゴールドバーグ。なんで白光騎士団がいるんだ
「それはこれからご説明いたします。さ、参りますぞ」

右にゴールドバーグ。左にセシル将軍。そして前後を歩く白光騎士団。…あれ?何この展開、泣いていいですか。ていうか…、もう一ついいですか。

「ふざけんじゃぬぇえぇえぇえ!!」


それは、これからの預言以上に読めまくる展開と、地核に引きこもっているローレライに向かって吐き出された言葉です。思わず素が出てるけど、俺のせいではありません。

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