マルクト領事館に行って、とりあえずピオニー陛下との連絡を終わらせた後。アスターのところでアクゼリュス救援のために物資を送ってほしいという話をしていた時だった。バタン、と開かれた扉の向こうに、使用人の人が見えた。

「アスター様、お客様がいらっしゃっていますが」
「今日はお客が多い日ですねぇ。フレイ様、こちらに呼んでもよろしいですかね?」
「俺は構わないですよ」
「イヒヒ…。そうでございますか。ではこちらへ」

はい、と言って頭を下げて出て行った使用人に、お客って誰だろうなぁ、なんて思いながら。飲み終わった紅茶のカップを置いて、立ち上がる。お客さんが来るなら、此処から退いた方がよさそうだと思ったからなんだけど。


「それじゃあアスターさん、あの件のことお願いします」
「任せておいてください」

恩を売れるなら今のうちに、とか思ってんだろうなぁ…。なんて思いながら、アスターさんに頭を下げる。アスターさんが俺のことを「様付け」で呼んでんのは、ダアトでそれなりに俺の地位があるからだと思ってるんだけど。


頭を下げて、それからその場を退こうとした瞬間だった。開かれた扉の向こうに見えた人影に、眉をひそめる。最初に見えた赤い髪が、俺を見て動揺しているのが分かった。ルークたちだ。まずいな、と小さく内心でため息をつく。…音譜盤の解析がなくても、此処に来ることになるのか。



「どうしたの、ルーク」
「…いや、」

立ち止ったルークを不思議そうにティアが覗いてきた。ひょっこりと空いた視界の中に俺が映ったらしい。あ、と小さく声を上げていた。さて、どうやって逃げようか。さすがに此処で捕まるのは遠慮したいんだけど、なんて思ってたら。ルークの後ろから何かが飛んできた。その存在にルークは気付いてないようで。

何が飛んできたかって?それは、ジェイドが普段武器として持っている槍が俺に向かって一直線に飛んできたんだよ!


「うおわぁああ!?ちょ、何しやがるテメェ!」

普通に避けたらアスターさんに当たる、と思って寸でで槍を叩き落とす。思いっきり振りかぶった姿を見せるジェイドを見ながら、槍を足で踏みつつ睨んだ。勿論、返ってきたのは笑顔のジェイドだ。

「いえ、貴方の顔が見えたのでつい」
「条件反射で槍を投げるやつが何処にいる!?」

叩き落とした槍を手に持って、それを再びジェイドの方へと投げ返す。ジェイドのところへ戻る前に、ルークに叩き落とされてしまったが。アスターさんは俺らのやりとりを見て知り合いだと思ったのか、特に何も言わずに笑っているだけだ。駄目だ、このままじゃまた捕まる。

「まぁそういうわけでサヨウナラ」
「さぁティア、第二譜歌を歌いましょうか」
「え、えぇ!?ちょっと待ってください大佐」

ひらひらと手を振ってその場から逃げようとした途端、後ろから不穏な声が聞えてきた。おい、俺だってダアトの軍人なんだけど。ティアの上司にもなるんだけど、第二譜歌なんて歌われても困るんだけど。あっさりと笑顔で言われたティアの方も戸惑っているのが見えた。


さすがにそれは出来ないのか、ティアがジェイドに困惑の表情を向けている間に、窓から出ようと一歩踏み出した途端。右手に何かがくっついた、というよりはひっついたような感じがして、嫌な予感を感じながらも、振り返る。



「フレイ、ちょっと僕とお話しましょうか?」


イオンが俺の腕を掴んで、にっこりと笑顔で見上げてきた。…あれ?イオンって俺の味方じゃなかったっけ?俺を捕まえたイオンを見て、「ナイスですイオン様!」とアニスが笑っているのが聞えました。

そう言ったイオンに、俺が断れないと分かったのかジェイドが許可を出した(ルークにも聞いていたが)そのまま、イオンは俺の腕を離すことなく、アニスとリンを引き連れて、俺を片手にアスター邸を後にしようと歩き始めていた。


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