過去との懐かしい再会


ってわけで、まぁ思惑通り(つーか途中で逃げようとしましたけど)一緒にケセドニアまで、一応ケセドニアまで!向かうことになりました。髭も一緒に船に乗ってるのが気に食わないんだけどな。髭も一緒、と聞いた途端に顔を歪めた俺に、ジェイドが不思議に思ったらしい。


「ヴァン謡将とは随分仲が悪そうですね」
「仲悪いっつーか、反りが合わないって感じ?」

現在、俺はジェイドと談笑?中。いや、そんな空気じゃないんだけど、俺の行くところ行くところにジェイドがついて回ってくる。多分、六神将って意味で俺のことを疑ってるんだろうけど。そんなジェイドに、少しため息をついた。甲板の少し手前で足を止める。

「あー、ま、そもそも俺が最初に神託の盾に入った時に入団したのが、第六師団ってのもあるのかもしれないけど」
「あの、カンタビレ師団長の?」


あ、知ってたんだ。と振り返る。何やら、苦いような顔をしているジェイドに少し首を傾げる。そういえば、リン…まぁリンがイオンだった頃。何度かレネスもマルクトに行ってたみたいだけど。何かあったんだろうか、と首を傾げるも、別に聞く話でもないから、いいかと思ってそのままスルーする。


「そうそう。元々髭とは険悪なレネスを間近で見てたからなぁ…」
「仲良さそうですねぇ、カンタビレ師団長と」
「ま、一緒に住んでたし…。保護者って感じ」

怖いんだけど、と小さく頬をかくと、何故かジェイドが小さく笑っていた。何だこいつ。ちょっと怖いぞ、今のこのタイミングでその笑顔は。俺が少し引いてジェイドから離れると、あぁすみません、と軽く謝られた。

「いえ、別にどうという意味はありませんよ。ただ、貴方が普通の子供に見えただけです」
「おーい、俺もう17だぞ死霊使いー」

お前の半分しかないけど、年齢。いや本当はもう1つ2つくらい下なんだけど。とは言わずに、眉を寄せてジェイドを見る。にこにことした笑顔で俺のこと見てるが、まだなんか疑ってるんだろうなぁ…。と困って視線を別の場所へ移す。



あぁ、海が綺麗だなー、なんて思ってたら、声が聞えた。

「ルーク!落ち着け、私の声を聞くんだ!」

おおっと、髭様が被験者ルーク様に暗示掛けてる最中ですよーっと。あの髭の声に気付いたのか、ジェイドが顔を上げて甲板の少し先を見る。そちらの方へ歩き出したジェイドを見て、同じように俺も歩き出した。ちょっと焦っているようなジェイドを見て、少しため息をついた。


俺が先に暗示をかけてるから、大丈夫だとは思うんだけど。これだけ俺が強ければ、あそこでルークを殺すつもりかもしれないな、とため息をついた。超振動を使われて崩落が速まっても困るし、此処はもう一つ。

小さく笑って、懐に手を入れた。ルークの手に第七音素が集まるのを見て、懐から取り出したそれをルークの頭上に投げた。ふと、前を歩いていた(走っていた、に近いかもしれない)ジェイドが止まって振り返る。


その“小さな箱”はルークの頭上で光を帯びて、ルークを包み込んだ。手に集まっていた第七音素はあっという間に拡散し、その反動か、ルークは気を失って倒れた。そのルークを支えたのは髭じゃなく、ジェイドだ。髭とジェイドが同時に俺に振り返る。



「じゃーん、封印術〜。いやー、取っといてよかったなぁ、これ」

にやにやと笑いながら、倒れたルークを見る。ジェイドが訝しげに俺を見ているにのも気付いたが、こっちよりも問題は髭だろうな、と思って髭を見ると。ジェイドからは見えない位置にいるせいか、不愉快そうに顔が歪んでいた。どうしてそんなことしたんだ、って感じだな。

「何故そんなものを持っている」
「いや、もしものことがあった困るだろ?たとえばイオン奪還の際に死霊使いに襲われたとかジェイドに襲われたとか。ま、結局使わなかったんだけどさ」

指しているのは1人じゃんか、というような視線が飛んできた。勿論、ジェイドから。倒れたルークを見ながら、続けるように言葉を紡ぐ。海風になびいて、髪が揺れる。


「詠唱なしの第七音素の収束は超振動が起こる時だけだ。こんなところで超振動起こっても困るだろ?だいじょーぶだいじょーぶ。あとでディストでも呼んで治させっからさ〜」

元々、どっかでルークに使おうと思っていた封印術だ。ジェイドに使ってもよかったんだけど、多分、今のジェイドならすんなりと封印術を解いてしまうだろう。それだけじゃ困る。



ルークの為に作らせた封印術。いや、正確には超振動を押さえるための封印術だ。第七音素の制御をほぼ出来なくなるような構造を作ってもらった。封印術は、万人に対応するように作るのに莫大な予算が掛る。けれど、目的を絞って、対象を一つに絞れば、お金はかかるものの、国家予算並みの費用までとはいかない。


「…つーか、なーにをそんなに怒ってんだよ髭」

その言葉で、ジェイドが振り返る。…瞬時に笑顔を繕った髭はつくづく怖いと思う。なんだかんだであの人は怖いんだ。結局、リンに言わせれば詰めが甘いということらしいけど。

「キムラスカ王族に封印術を使うか」
「かったいなぁ…。普通、周りの人間で封印術が掛けられてるってことに気付く奴は殆どいねーよ。それに、多少身体が重いっつっても、旅の疲れただと思ってくれるだろ?」


俺、何か間違ったこと言いましたか?なんて言えば、諦めたのかため息を一つついて、俺の横を通り過ぎて行った。…何か言われたような気がするが、特に気にせずにいた。何を言われたかも理解してたが、あとで髭のところになんて行けば十中八九説教に決まってる。



俺の横を通り過ぎて行った髭の後ろ姿を見ながら、呆れたようにため息をついた。文句言いたいのは分かるんだけどなぁ…。そう思いながら、背中に刺さる視線に振り返る。勿論、そこにはジェイドがいるわけで。

「…どういうつもりですか?」
「どうって、何が?あれ以外に超振動を止めるなんて無理だろーが」

呆れたように肩を竦めて、ジェイドを見る。こっちに[戻って]来てからとうもの、なんか音素の流れに敏感になってるような気がする。どうしてかっていうのはいまいち分からないけど。


…譜術を教えてくれた人、第六師団の副師団長が言ってたかな。音素を扱うのは多分、得意分野のはずだって。簡単に言えば、音素に好かれてるってことらしいんだけど。詳しい話は教えてくれなかった。それも関係あるんだろうか。

(ディストに聞くしかねーかなぁ…)

倒れているルークといまだに俺を見ているジェイド。その2人を一瞥して、海の方へと視線を向けた。遠くに見えたケセドニアに、ようやくジェイドの視線から逃れられる、と一つ安堵した。

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