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「むぅ、なんであんなに不機嫌になったんだよ」 「あれが、フレイにとっては地雷だからだよ」
まだ治ってなかったのか、と小さく呟いた。前にも似たようなことがあったことを思い出す。何の任務の時だったか。ローレライ教団へのテロを恰好した連中を目の前にした時、そいつらがフレイの二つ名を口にしたことがあった。その時、一般兵の出る間もなく、フレイが全て片づけてしまったのだ。誰一人殺さずに、しかも剣もさほど使わずに。いつの間にこんなに強くなってたんだ、とシンクが目を見張ったくらいだ。
ひょっとしたら、しなくともかもしれないが。今のフレイには譜術がある。それを使えば、謡将よりはるかに強いかもしれない。なかなか本気を見せないフレイだが、実力としては申し分ないほどだろう。それが分かっていたからか、リンもフレイを響将にした、のかもしれない。半分以上の理由は嫌がらせだろうが。
「地雷?」 「そ。あの二つ名、嫌いなんだってさ。……ま、超振動に良い思い出がないのは分かるけど」 「…思い出……」
超振動がフレイにとって、一番大事な力で、そして一番忌むべき力なのかもしれない。[戻って]きて、一度も。その超振動を使っているところを見たことがない。[前]は使っていることは聞いていたりした。アクゼリュス崩落、外郭降下の操作、障気の中和、そしてシンク自身が見たわけではないが、恐らくしたであろう。ローレライの解放。 思い出、と言われてフローリアンが思い出したのは、レプリカイオンの一人として実験されていたことだ。良い思い出ではない。けれど、それがあったからこそ、自分が此処にいることはフローリアン自身もよく知っていた。それと、もしフレイにとっての二つ名が同じだとしたら。それに考え付いた時、フローリアンは顔色を一瞬なくした。
「…ぼ、僕、謝ってくる!」 「待ちなよ。それはやめておいた方がいい。分かったんだったら、次から二つ名は口に出さないこと。いいね?」 「うん…」 「それくらいでフレイが嫌いになんかなったりしないから、大丈夫でしょ」
一番フローリアンが懐いているのは、フレイだ。それをシンクも分かっている。嫌われるのが怖いだろうことも。そして、シンクはフレイが誰かを切り捨てられるような性格でもないことをよく知っている。だからこそ、この六神将たちはフレイのことを敵視してはいない。ヴァンについていくと決めたリグレットでさえ、だ。そして、誰も切り捨てられないフレイが切り捨てるモノ、と言えば。
「ほら、いつまで此処にいるつもり?さっさと行くよ、フローリアン」 「うん!そうだね!」
笑ってシンクと一緒に歩き出したフローリアンを見る。恐らく、それを知らないのはフローリアンだけだろう(アニスは知らないが)。きっと、もう七年も付き合っているリンなら気付いているだろう。誰よりも。
周りに善意を振りまくくせに、自分に向けられた善意や好意には全くと言っていいほど気付けない。他者を切り捨てることを出来ないフレイが、切り捨てられるものと言ったら一つしかない。それは、フレイ自身だということ。
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