まぁ貴重なローレライの情報を持っているということで、ミュウの耳を掴んで長老に向かって、お礼にこれを貰っていきますねー、と笑顔で告げて(通じてるかは分からないが)そのチーグルの巣をあとにする。暗い穴蔵から出て、木漏れ日が丁度いい感じに感じられる場所まで出たところで、手に持っていたミュウを落とした。下ろしたではない、落としたが適切な表現だ。虐待とか言うな。

「ローレライは何て言ってたんだ?」
「ご主人様に宜しくと言ってたですの」
「あんのやろう、それだけか…」

約束でもなんでもないし。いや、約束か。たった一言だけの接触に、軽く頭痛を覚えて、頭を抱える。その間に、うぃ〜んぐとかいってミュウが飛び、肩に乗ってきたが無視無視。もう今更置いてくるのも面倒。イオンを探した方が早そうな気がしてきた。肩に乗ったミュウは俺の顔を見て、みゅ?と首を傾げていた。いや、怪訝な表情は十中八九お前のせいだから。

「ミュウ、お前に頼みがあるんだけど」
「はいですの!なんでも来いですの!」
「イオンとアニスのところに行け」
「嫌ですの」

誰に似たんだ、この我が儘!…あ、俺か。即座に嫌と言ってきたミュウだけど、正直イオンに投げて逃げれば、そう簡単には俺には追いつけないだろう。ライガクイーンを移住させれば、アリエッタがそのまま魔物で迎えに来ることになっているから。イオンにミュウを投げて、それから魔物に掴まって逃げれば、しばらくは追いつかれない。向こうにミュウがいないと本当に不便なのは俺が身を持って理解している。

とりあえず、ため息を付いてその場から移動すべく歩き出す。勿論、森の外に向かってだ。その間、肩にいるミュウのことは気にしないことにした。

「まぁいいや、とりあえずイオンでも探すか」
「う、売られるですの!」
「違うから」

ぎゃあぎゃあと騒ぎ出したミュウに若干眉間に皺を寄せる。側にいたい云々は分かっているが、肩の上でそう騒がれると、耳元が近くてやけに高いその声が耳について、それはもう苛々する。言わないけど。


ふと、深いため息を零した時。木の陰から見慣れた緑が動いた気がした。森自体が緑だから、あんま見分けつかないんだけど。それは確かに動いて、一瞬止まった。次にはありえないくらい猛スピードで、文字通り木も小川も無視して一直線に俺の元へ走ってきた。見事ぴたっと俺の前で止まったそれは、言うまでもなくイオンだった。病弱設定が何処かへ吹っ飛ぶ勢いだった。


そのイオンはといえば、ぱっと上げた顔でにっこりと笑う、それはイオンだった。当然、後ろからは一緒に来ただろうルークとティアの姿が少し遠くに見える。さすがに一直線には来れなかったんだろう。俺にしてみれば[アッシュ]と[ティア]にしか見えないわけで、なんだか違和感。しかも腹だしじゃないルーク。そこは性格の違いか…とちょっと寂しくなったのは内緒だ。

「どうしてこんなところに貴方が?」
「それは俺の台詞だ。守護役もつけないで何をやってんだ」

すぐそこまでルークたちが来ていたこともあって、イオンの言葉には応えなかった。それでもすぐにライガクイーンのことだろうとは気付いたらしい。最も、俺の質問には知っているだろうという顔をして、ぷうっとほっぺたを膨らませていただけだが。その額に、軽くデコピンをした。その衝撃か、少し赤くなった額を抑えるイオン。

「ライガクイーンなら連絡のあった通り移動させておいた。だからお前は戻れ。じゃないとアニスの給料が下がるんだからな」
「あ、ありがとうございます…」

連絡なんて貰っていないのは分かっている。けれど、ティアも納得させるには一番早かった。昨日、チーグルが食料泥棒だと発覚したのなら昨夜に連絡する暇くらいあっただろう。まぁ当たり障りない嘘ってところだけど。額を未だに抑えているイオンから視線を外して、ティアを見た。俺に見覚えがあるのか、首を傾げていたがすぐに名前は出てこなかったらしい。そんなティアに近付いて、肩に乗っているミュウの頭をわし掴みした。

「ダアト軍人だよな?悪い、このボケ導師を守護役のところまで護衛してくれ」
「え、あ、はい」

教団服じゃないが、何となく雰囲気で断れなかったんだろう。えー、一緒に来ないんですかー、とか言っているイオンに馬鹿か、と返す。そして頭をわし掴みにしているミュウを、イオンに対して後ろを向いたまま投げた。慌てるような空気の後、ミュウはきっちりイオンの腕の中に収まっているだろう。困惑するようなイオンの声を聞きながら、ミュウを持っていた手をひらひらと振りながら、イオンの方を一度も見ずにその場から踏み出す。

「しばらく預けるからよろしくな〜」

笑ってそう言えば、売られたですのぉぉおぉ!なんて声が聞こえてきたが無視無視。





「…ミュウ、ですよね…」
「イオン様ですの!ご無沙汰しておりますですの」
「え、えぇ…そうですね…」

ミュウまで[戻って]きてるなんて、一体何を考えているんですかローレライ!そう心の中で言いながらも引きつった笑みを浮かべるイオン。幸いなことは、ティアとルークが[戻って]きていないことだろうか。

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