封印されていた扉を破壊したところで先に進むことに。真っ先に歩き出そうと、俺の少し前まで来たルーク。それを、止めた。辺りを警戒するように、眉を潜めながらルークを少し下がらせる。

「おい、どうした?」
「………いや、」

気配がした。いや、まぁ最初から分かっていたが。気付いたらしいジェイドも辺りを警戒していた。少し下がっていたルークを、一番後ろにいるティアのところまで突き放す。と、同じくらいにアニスをジェイドに投げた。追い掛けてこられても困る。そして、天井に向かって叫ぶ。

「フローリアン!」

ほぼ同時くらいに、フローリアンが先程アニスが空けたも同然な穴から飛び降りてきた。着地をしながら、一番近かったガイを壁際まで蹴り飛ばしていた。


「うわぁあぁ…フレイまでいるんですけどー」

振り返りざまにフローリアンが叫んだ。それもそうだろうなぁ、と頭をかきながら襲ってきたフローリアンを見る。此処をフローリアンに任せることには些か不安があるが、まぁ仕方ないだろう。

「リン」
「げ、」

名前を呼んだだけで分かったのか、顔を歪めていた。これだけ狭い場所ではジェイドも譜術を使えないだろうし…最悪の事態にはならないだろうしな。何より、あまりジェイドに来て欲しくはないからな。

「……フローリアン、お仕置き半減でどうだ?」
「う、……うぅー了解ー」

何の話か理解出来なかっただろう。相変わらずルークから怪訝そうな視線が飛んできた。それに気付かないふりをしながら、剣を持たずにルークたち一行を見た。俺とルークたちの間にはフローリアンがいる。


「イオンはちゃんと連れて来てやるからさ、まぁ勘弁してよ」
「フレイ様?なにを…っ!」

告げた俺に、何の気無しに近付こうとしたティアにリンがナイフを投げた。咄嗟に避けたから、当たりはしなかったけれど。驚いたように目を見開くティアたちの目には、フローリアンに並ぶリンがいた。ジェイド、すげー不機嫌そうだなぁ。

「何のつもりですか?」
「行きたいのは山々だけど、上司はフレイだから。どうしようもない」

ジェイドの問い掛けに、渋々という顔を心底するリン。使われんの、嫌いだからなぁ。ひらひらと右手を振りながら、背中を向ける。

「イオンは帰すって。二人とも、あとよろしく〜」

リンの譜術が聞こえた。背後で瓦礫が崩れる音がする。少し後ろを見たら、道が瓦礫により塞がっていた。それに堪らずため息をつく。ふと、これから向かう先から、足音が聞こえた。極力立てないようにしているらしいが、慌てているのか珍しい。小さく笑いながら、どうしてくれようかと呟いた。ほんと、事態をめんどくさくしてくれるよな。




「何してくれんだよ」

そちらに歩きながら、そう言えば、相手は止まった。苦笑いしながら、その相手…シンクを見れば、苦汁を飲んだような顔をしていた。感情を表に出すようになったのは、いいことなのかな。立ち止まったシンクの横を、そのまま通り過ぎる。怒られる、と思っていたらしいシンクは面を喰らったような顔をして、あとから追ってきた。

「…別に、計画には支障ないだろ?」
「まぁな。どうせ"ルーク"のデータのことだろ?そう思うなら、連絡寄越せって話」
「そうなんだけど、」

それだけじゃない、と呟いたシンクの小さな言葉は聞こえなかったフリをしておいた。リグレットにも言われたことだしな、生き急ぐなって。大爆発や、なんやらの研究の為に被験者のデータが欲しい。いくら二回目だからといって、データがなければ話にならない。これがディストの言い分だったらしい。まぁシンクがルークを気に食わないってのも、あるんだろうけど。長い階段を降りながら、そんな話を聞いていた。

「……ならさっさと終わらせて引き上げるぞ。タルタロスの点検が終わり次第、バチカルに向かわなきゃいけねぇし。それにアクゼリュスにも入らなきゃだからな」
「…前々から思ってたんだけど、何でフレイは他人優先なのさ」
「んー?」

階段を下りきったところにはフォミクリーがあった。下にはディストとアリエッタ、イオンがいたのが見えたが、シンクに振り返る。仮面がないからよく分かる。明らかに不満そうだ。シンクがルークに突っ掛かる理由はそれだとは知っていた。知ってて、やってんだけどな。ジェイドの質の悪さが移ったかな。

「それが、俺の幸せだから」

嘘ではない、本質だから。ただ笑ってそう言った。大事なモノって、あるじゃんか。それが今の生きる理由だから。いや、本当は生きる理由なんざいらないんだろうけれど。言い換えるなら、覆そうとしている理由。在るだけでいい。ただ、在るためには戦わなきゃいけないことも、あるだけで。

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